3-11 おくりびと
眠っている。熱が上がったり、下がったり。シゲの体から少しづつ、力が奪われてゆく。苦しいだろうに、笑っているように見える。幸せな夢を見ているのだろう。
「そろそろかな。釜戸山の、守り人の村の長が来るのは。」
「そうだな。」
「セツたち、はやく弔ってやりたいが。」
シゲは早稲の外れに暮らす人たちにとって、長のようなものだ。そのシゲが倒れ、眠っている。代わりを務められるのは、ノリとカズだ。
釜戸山からは来るのは、長だけじゃない。日吉か茅野の狩り人と、舟を操る釣り人。それらの人を迎え、捕らえた罪人を引き渡さなければならない。
長い苦しみから解き放たれたセツと子は、コノたちによって整えられ、待っている。
ノリ、カズ、コタの三人とも、同じことを考えていた。できることなら、今から埋めてやりたい。しかし、それは叶わない。暑さと湿り気は、死んだ者の体をジワジワ腐らせる。
手厚く葬ってやりたい、でも、釜戸山の人たちを待たせられない。どちらかを選ばなければ。
「ただ罪人を渡せばいいわけじゃない。」
「そうだな。」
「オレたち、立ち会わないとな。話、聞いたから。」
「ああ、そうだ。それに。」
「話が終わって、引き渡して、帰ってもらおうって時には、日が暮れてるな。」
「泊まってもらうしかないだろう。」
「夜、帰らせるわけにはな。」
「いくら釜戸山の釣り人でも、夜は。」
「危ないし、コイツら、暴れるかもしれない。」
「・・・・・・・。」
「ここに来てもらって、話して、それから泊まってもらうように頼む。」
「それがいい、よな。」
「いいと思う。」
「朝餉を食べてもらって、それから、ついて行けないことを話す。で、コイツらを舟まで運んで、帰ってもらう。」
「もし望まれるようなら、後から行くと言えばいい。」
「みんなで葬りたいよな。」
「ああ。」
「シゲ、起きられるかな。」
「難しいかもしれないな。」
「オレさ、家を焼いて弔ったこと、ないんだ。」
「ここじゃ、一度に死ぬこと、ないからな。」
「オレは昔、見たことがある。となりの家の人が、フグの毒にあたって、死んだんだ。それで、見た。」
「ノリ、海の近くに住んでたんだったな。」
「ああ。豊かで、いい村だった。となりの村人に襲われるまで、争いごとも、何にもなかったよ。だから狙われたんだ。」
「じゃあ、家を焼く葬り方、知ってるのか?」
「死んだ父さんから聞いた。」
「なあ、守り人の村長たち、どこに泊まってもらう。」
「ああ、この家ってわけにはな。」
「オレの家がいいよ。となりだし。」
「いいのか。」
「ああ、いいよ。社の司には、任せられないだろう。」
「そうだなぁ、任せられないよなぁ。」
「頼りなくても、なれるんだなぁ、社の司って。」
「いや、早稲の村だけだろう。」
「他は、しっかりしてるぞ。」
「強い力を持つ祝もいる。」
「早稲にはなぁ。」
「いないからなぁ。」
ヨシたちは呆れ果てていた。早稲の社の司は、何を考えている?他の村から人が来たんだ。それなりの受け答えが、なぜ出来ない。
それより何より、早稲の村長はどうした。なぜ来ない。もしかすると来られないのか?それで社の司が来たのか。だとしても。どうしたものか。
誰か、奥から走って来る。村人か?
「お待たせして、申し訳ありません。私は村はずれに暮らすカズです。不届き者を捕らえ、縛ってあります。こちらへどうぞ。」




