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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
耶万編
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7-70 アレは無い


「で、どう使う。」


ノリに問われ、シゲが続ける。



ふたなりの狩頭は今、良山よいやまの狩り小屋にいる。


獣谷の隠れ里と結ぶために、ここまで来たんだ。どうしよう、どうしようって、頭を抱えているだろう。



良村よいむらは結ばない。獣谷の隠れ里も、同じ。そう伝えたんだ。


引くしか無いと、分かっている。分かっているが、解ってナイ。朝餉の時に、頼み込むだろう。もう一度ひとたび、考えてほしいとな。



その時、言う。『結ぶなら、楢守ならもりと結べ。それから、いわおとも結べ。三つの里で固く結び、生き残れ』と。


で、三つの隠れ里が結べば、嵓に伝える。『退けるために、力を合わせよう』と。



何を、とは言わない。このたび耶万やまだが、他の国だって、北を目指すだろう。いつか、な。




「嵓と組むのか? 信じられないのに。」


あかに問われ、シゲが答える。


「上木と樫は、良村の後ろを。前は、嵓。」


ニコッ。


「なるほどな。」


うたが、話し始めた。



耶万のつわものが引かず、嵓を押す。引こうにも、後ろに良村。その後ろには、上木と樫。どうにも、ならない。


緋は殺し、謡は集めるのが上手い。嵓でも毒嵓どくらでも、逃がさない。偽れない、騙せない。だから引けない、裏切れない。



嵓が隠れ里を移さない限り、あの地は守られる。


上木も樫も、嵓とは組まない。幾度いくたびか申し込まれたが、断わった。



嵓は焦る。


良村との繋がりが無ければ、里を守れない。他に移そうにも、移せない。毒を作り続けるには、あの地を離れられない。


もし移せるなら、サッサと移す。きっと嵓の毒を使えば、毒になる草か何かが、使えなくなる。だから移せない。




毒が無ければ、嵓は弱い。


いくら暗くても、獣の罠に忍びが掛かるか? 谷望たにのぞみつるばみなんて、暗くても判る。って進まない限り、気付くさ。



束でしか、動けないんだ。


毒に頼りきって、一人じゃ忍べない。だから夜しか、見なかった。闇を纏わなけりゃ、動けない。昼は狩り人と同じか、少し強いか。


毒が無ければ、戦える。緋ほどじゃないが、謡だって戦える。イザとなりゃ、幾らでも。



「でもな、謡。偽っているとも、考えられるぞ。」


緋が続ける。



確かに、毒嵓は弱い。一度だが、風上から見た。アレは無い。毒玉を投げ込んで、逃げたんだ。伊東だぜ。いくさに負けて、直ぐの。


月が出ない夜、暗くてな。水を求めてフラフラ、ヨタヨタ。直ぐに死ねなかった人たちが、ぶつかり合って。倒れて、動かなくなった。



毒でしか殺せないのか、そう思った。でも違った。ソイツ、嫁に行って生き残った娘を、殺したんだ。


戦前いくさまえうね、火の前にいた娘の胸を、弓で貫いた。あの腕があれば、毒なんて使わなくても。なのにヤツは、使った。



伊東の生き残ったせがれは、若かった。頭は回るかも知れないが、小さかった。なのに、毒で殺した。弓が使えるのに、毒を使った。


聞いたんだ。なぜ毒を使ったのか。そしたら腹を抱えて言った。『あの倅、酷いよなぁ。一人じゃ死ねず、道連れにしやがった』って。


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