7-68 茫然自失
「オレも、聞いたコトある。早稲にいた時、風見と耶万で。」
「オレは、浦で聞いた。」
ノリとセン。
「戦の時、采で聞いた。」
カズがポツリ。
「叫んでたなぁ。『死ぬ前に暴れたい』って。」
「兄さん?」
「聞いたんだ。オレは言ってない。」
コタ、大慌て。
「いろいろスゴイと、思っていたが。」
「ここまでとは。」
ポカンとする、緋と謡。
「覚えているかい? 良山に耶万が入った時に、話した事を。」
シゲが皆に、問いかける。
「あぁ、覚えている。流山に住みついたって、ヤツだろう?」
カズが答えた。
「そういえば、見ないな。気付いて逃げた?」
タケ、首を傾げる。
『月が満ちた夜明け、風が騒ぐ』 ずっと昔、ゲンが言った。
解らなかったが、気が付いた。罠を仕掛けに出た時、人の焼ける匂いが風に乗って、届けられたから。その前の夜、月が満ちていたと。
ふと山に入り、調べようとして止めた。仕掛ける前に付ける跡が、あちこち残っていたから。次の日、流山に入った。で、見つけた。
酷いモンさ。焼け残った骸や骨には、刺されたり突かれた跡が、ハッキリ残っていた。中には子、嬰児も。
耶万に攫われたか、罰を受けたか。戦えない人を、流山に送り込んだ。家を建てさせ、暮らさせた。
流山の、あちこちに。試したんだ。どこに村を作れば、嵓が動くか。
耶万は知った。流山の南。枯れた川の近くから、南の端。その真中。そう遠くない所に、嵓の里が在ると。
「なぜ、そう思うんだい?」
「それからさ。流山に南の人が、住まなくなった。」
カズに問われ、シゲが答えた。
「で、毒嵓は。どうするのだ、シゲ。」
「オロチ様。流山にも、神は御坐すのでしょうか。」
「水豊神は、御隠れに。妖怪の墓場なら、今も在る。」
嵓と結びたいとは、思いません。でも、耶万は攻めて来ます。
耶万は嵓が、流山の近く。渦の滝から、橡の大木。その辺りに在ると気付きました。
曲川から攻めれば、嵓の毒に怯える事は無い。そう考え、兵を引き連れ、川を。
毒嵓は知っている。上木と樫が、良村と結んでいる事を。オレたちが早稲の生き残りで、獣谷の隠れ里と繋がっている事も。
上木、樫、獣谷。全て隠れ里。だから嵓もと、考えた。
良村は知っている。嵓が耶万の夢より、危ない毒を扱うと。嵓は決して、共に戦わないと。
だから双を使った。良村を頼るよう、嵓と結ぶよう。耶万が暴れ川を使わない事、曲川から攻めて来る事を分っていて、仕向けた。
「忍びだから信じられないのでは無く、嵓だから信じられない。もし結ぶなら嵓では無く、嵓社と。」