表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
耶万編
424/1582

7-67 動いたのは


確かに。


どこかで見つかれば、その近くに引っ越すだろう。そして迷わず、毒を使う。あの辺りで。


困る。そんな事になれば、子が。その子、孫が苦しむ。




「結ぶなら、忍びの結びに。一度ひとたび、結べば解けない。後見うしろみに、あかが付こう。」


うたも付く。」


緋と謡が見合い、頷いた。


「それは良い。我も立ち合おう。」


人の姿に化けた大蛇おろちが、ニコリ。



人と人の誓いは破れても、神と神の誓いは破れない。嵓社いわおのやしろが在る限り、嵓神いわおのかみ御坐おわす限り、決して破られない。破れない。






いわお。狩り人と、忍びの隠れ里。ずっと昔、好いた娘がおさに。ギリギリで救い出し、手を取り逃げた。


北へ北へ逃げ、里や村を転転と渡り歩く。


行く先先さきざきで狙われ、逃げる。気付けば、深い山奥に。気付けば、同じような人が。そうして出来た、隠れ里。



人として生きる事を差し止められ、物として扱われる。それが忍び。


そんな生き方しか許されない者が、抜け、逃げた。行き倒れになったが、隠れ里の狩り人に救われる。



救った男は、忍びだった。


里人の多くが、恐れ震える。しかし長は、忍びを受け入れた。『人として生きるために、逃げ出した。オレたちと同じだ』と。




忍びは増えた。一人、また一人。


死ぬな、生きろ。そう言われ、救われた忍びたち。里を守るために、戦った。里を守るために、毒を使った。



森の中で、人が倒れていた。


パッと見て直ぐ、解った。髪が刈られ顔はれ、破けた衣からは、あざや傷が見えた。なぶられ、そして・・・・・・。


『死にたい』『殺して』と、娘が呟く。ガランとした目で、氷のように冷たい涙を流し、こいねがう。妹を、思い出した。



美しく、優しい娘だった。



長に穢されてから、その取り巻きに。


妹は、忍びでは無い。兄が忍びだからと、何をしても許されると、酔った男たちの欲を、ぶつけられた。小さな体を捌け口として使われ、殺された。


妹は死んだが、この娘は生きている。まだ間に合う、救おう。忍びは娘を、里に連れ帰った。癒し休ませ、そっと見守った。



見える傷が癒え、歩けるようになった娘は、祝だった。


助けてくれた里人のため、岩に願いながら触れて周り、フワッと光った石を祀ったのが、嵓社の始まり。






「話だけ聞くと、良い里だがな。嵓は歪んでいる。」


緋が呟く。


「どんな歪みか。解るように、頼む。」


ノリが尋ねた。



嵓は女を崇め、守り抜く。女が暮らしやすい里は、良い里だ。女が笑っている里は、豊かな里だ。女の幸せは、里の幸せに繋がる。ここまでは良い。


守るのは、嵓の女だけ。他の女は見捨てる、切り捨てる。目が合っても、助けを求められても。嬲られていても、穢されそうでも、何もせず通り過ぎる。



夜更けに戻り、毒を試す。


効き目、広がり、そののちを調べ、次に活かすんだ。幾ら使えば、どれだけ死ぬか。幾ら使えば、滅ぼせるか。里なら、村なら、国なら。



「嵓が動いたのは、知られたから。」


「だろうな。『流山の辺りに、嵓の里がある』 神成山かみなりやまの辺りじゃ、知られた話らしい。」


「長、それは確かか?」


謡に詰め寄られ、シゲが頷く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ