7-66 御尤も
「その嵓の忍び。罠に掛かり、ぶら下がって居るぞ。」
人の姿に化け、大蛇。
「オロチ様。それは、どの辺りでしょうか。」
「谷望の橡だ。」
「・・・・・・え。」
集まっていた皆、ポカン。
あの罠に、忍びが? 狩りの罠に、忍びが? 暗くても、忍びが掛かるとは思えない。
いや、まぁ。ん、待てよ。
嵓は一人では、動かない。直ぐに誰かが外して、助けるだろう。
「朝まで吊るすか?」
???
「一人だぞ。一人で来た。」
「えっ。」
緋、謡、シゲ。ビックリ。
「一人だと、おかしいの?」
コノに問われ、シゲが答える。
「嵓は束で動く。二人か三人づつ、五つに分かれてな。」
「忍びにしては、遅いか。」
「オロチ様。それは、どういう事でしょうか?」
ムロ、冷静に問う。
マルたちが夕の山歩きと、木の枝ポーンを終え、村に帰ろうとした時だ。渦の滝を、忍びが越えた。同じ頃、緋と謡が休むため、木に登った。
嵓神の使わしめ萬は、姿を持たぬ妖怪。思いを残して死んだ魂が集まって、生まれた。
鳥肉が好きでな。食らうには良いと、蛇の姿で過ごす事が多い。どういうワケか、我に懐いて居る。
嵓の祝に仕える忍び、毒嵓。嵓社の守り札を、必ず隠し持つ。よって、毒嵓に違い無い。
渦の滝を越えた時、萬へ使いを遣った。それはそれは持て成され、戻るのが遅くなった。くれぐれも頼むと、言伝を預かった。
「嵓はな。『良村と結ぶため、伺います。争う気など、御座いません。忍頭に誓い札を持たせました。宜しく御願い、申し上げます』と。」
「オロチ様。掛かったのは真に、忍頭なのでしょうか。」
緋が問う。
「真だ。我を騙しても、得は無い。寧ろ、損をする。」
良山には、良村が在る。はじまりの隠神で在らせられる、蛇神の愛し子が幸せに暮らす村が。
マルに何かあれば、荒ぶられる。蛇の怒りは凄まじい。嵓など、一溜りも無い。
泉の近くに、石積みの社が作られた。マル特製、大蛇社。
国つ神に復帰した事で、隠の世と人の世。どちらでも祀られる、唯一柱の神と御なり遊ばした。
「シゲ、どうする。」
「結ぶのか?」
カズとノリに問われ、考え込んだ。
「とりあえず一度、話を聞くよ。それから決める。」
「でもな、シゲ。」
「何だい、コタ。」
忍頭が、獣の罠に掛かった。狩り人なら掛からない罠に、忍びの頭が掛かった。
センやノリの話を聞く限り、恐ろしい毒使い。耶万と同じだ。毒を使って、奪う。信じられない、頼れない。
北で毒を使わないのは、引っ越せないから。他じゃ作れないから。って事は、他で見つかれば、使うぜ。