7-65 怪しい、オカシイ
みんなで楽しく、夕餉を食べる。モリモリ食べて、スクスク育つ。好き嫌いなんて、ありません。
パクパク、モグモグ。ニコニコ、モグモグ。それから仲良く、お片付け。
お腹いっぱい食べて、ウトウト。良い子はスヤスヤ、夢の中。
「急ぎ知らせようと、来た。」
「嵓が動いた。」
緋と謡が見合い、頷く。
嵓の隠れ里が、橡の大木から離れた所。曲川の向こうに在る。手出ししなければ、何もしない。だから互いに、放っておいた。
嵓は里を守るため、殺す。
里を守れれば、それで良い。そういう里だ。毒を使うが、里の辺り。北の地では、決して使わない。毒消しが無いから、使えない。
忍びがいる里は、どこも同じ。
結ぶのは、忍びの結び。他とは結ばず、関わらず。山奥に隠れて、暮らしている。しかし上木、樫、心消。三つの隠れ里は、良村と結んだ。
知っているのは、五つの忍び。
他に結んでいる隠れ里には、忍びが居ない。他に結んでいる村にも、国にも、忍びが居ない。
釜戸社から、許された村だ。霧雲山の忍びが、関わっている。付き合いがある。ただ、それだけ。
五つの忍びと会っても、軽く話すダケ。オレたちは良村と結ぶ前から、関わりが。だから知られず、守れる。そう、思っていた。
「嵓の里長が子を使い、双に近づいた。」
溜息交じりに、謡。
双の狩り人は、良く晴れた日を三つ数え、流山に入る。
隠れているから、鳥の谷では狩れない。里の辺りで狩れるのは、四つ足の獣。鳥肉が食べたいのに、食べられない。だから危なくても、流山で狩る。
当たりを付けて、罠を張る。気を引くために、繋ぎに使うために。上手く運べば、独り立ちさせる。そう言って、子を餌に。
底なし沼に子を飛び込ませ、胸まで填まらせた。
大声で助けを求め、大泣き。双が近づくのを見計らって、鳥を嗾けた。首まで填まらせ、目を狙わせた。
まんまと騙され、子を助けたのが、双の狩頭。
そうとも知らず、疑いもせず、子を癒した。川まで連れて行き、洗い、替えの衣を与えた。火を起こし、温め、食べ物を与えた。
『認められたくて、一人で来た』なんて嘘を信じて、里まで送る。誘き寄せた双に、ボソッと言う。『良村の長と、話したい』と。
「嵓の動きが、怪しい。とてもオカシイ。」
緋が言う。
曲川から来る敵に備え、いろいろ仕掛けた。嵓も知っていた。知っていて、捨て置いた。嵓の役に立つ、良い事だから。
あの、早稲の生き残り。親無し子を引き取って、育てている。山に手を入れて、守りを固めた。守りながら攻め、戦好きに勝った。
良村は漏らさない、裏切らない。忍びの間では、知られた話。良村と繋がりを持ちたい。そう思う隠れ里は、とても多い。多いが嵓は、動かなかった。
なのに、動いた。捨て置いたクセに、上木に使いを寄越した。『良村との繋ぎを、頼みたい』と。
何を考えているのか、全く分からない。毒は、使わない。食べ物に困るから。肉も魚も、食べられなくなるから。
しかし何か、企んでいる。