7-64 毒忍び
「嵓、か。」
「知っているのか、セン。」
シゲに問われ、答える。
狩り人と、忍びの隠れ里。海と山の毒を操り、たった一度で、多くの命を奪う。どうするのか、全く分からない。毒を散らすんだ。霧のように、靄のように。
サッと晴れたら、始まり。
喉に手を当て口を開け、ゴロゴロ転がる骸を食らった獣がな、殺すんだ。その肉を食らった、全ての生き物を。
骸が倒れて、水に。
そうなると魚が、ふやけた骸を食らう。小さな魚から、大きな魚。沢から川、川から海へ。そうして、毒が広がる。
違いなんて分からない。毒を蓄えた魚が泳いでいる、なんて思わない。
釣った魚を焼いて、味わう。片付けようとして、苦しむんだ。口をパクパクして、ドタッと倒れる。
終わるまで。毒が薄れるか消えるまで、どれだけ掛かるのか。誰にも、分からないんだ。
「どうにか、ならないのか?」
コタが問う。
「嵓の毒は焼いても、蒸しても茹でても、消えない。」
センの言の葉を聞いて皆、黙り込んだ。
「子の時、聞いた。」
ノリが語る。
嵓は忍びと、狩り人の里。
畑や田を作るより、森で食べ物を探し回る。隠れ里だから、どことも結ばない。見つからないように、人の集まる所へは行かない。
里の近くに生えている草か何かを、主に使うらしい。その毒に他のを混ぜて、強い毒にする。その毒が無ければ困るから、里を動かせない。引っ越せない。
とはいえ、肉や魚を食べずに生きるのは、難しい。だから里の近くでは、決して毒を使わない。毒を試すのは、里から遠く離れた国か、大国。
嵓のある山や川は、障りない。だから多くの樵や狩り人が、嵓の里を探している。嵓は見つからないように、近づく人を殺す。
毒を使わずに殺すと、獣に襲われたように偽る。それを見破る事が出来れば、見つけられる。当たりが付く。
「まぁ、噂だがな。」
「なぁノリ。ずっと前、早稲に居た時。言ってたな、犬が騒ぐと。」
カズが問う。
「生きてる犬じゃ無く、隠とかな。オレにも聞こえるように、話してくれた。」
この川は危ない。大きな魚が、最も危ない。小さな魚の毒を、多く食らった。だから危ない。決して釣るな。とまぁ、そんな事を言うんだ。
そうまで言うならと、湖を目指す。で、言うんだ。この先は危ない。毒の魚が入っている。止めておけって。
オレ、海はアンマリだから、釣るなら川か湖。
日が暮れるまでに早稲に戻れる、近くて穏やかな。ってんで、北へ漕ぎ出した。南も西の東も、止めとけ止めとけって、言うんだ。
犬を乗せて出るのは、教えてもらうため。撫でるし、愛でるけど。賢くて、カンが鋭いんだ。
良山に引っ越すって決まった時、犬たちが喜んだ。
北の地には、嵓がいる。嵓の隠れ里が在るから、好きに釣れる。良かった、良かった。そう言ってブンブン、尾を振ってな。
嬉しかったぁ。川沿いにズラッと、犬が並んでさ。見送ってくれたんだ。ワクワクしたよ。
ウットリしながら、語るノリ。とっても幸せそう。