7-63 ボクの声が聞こえるの?
「少し前、嵓の子を助けた。迎えに来た狩頭が、言ったんだ。『良村の長と、話したい』と。」
真っ直ぐ目を見て、話す。
「それだけか。」
カズの目は、冷たい。
「話したいなら、なぜ出なかった。」
シゲが問う。
オレも思ったよ。両の手を上げ、『話がしたい』って、言えば良いのにって。でも怖くて、恐ろしくて。
何て言うか、目がイッチャッテタ。子は、良い子だよ。
流山の底なし沼に、首まで填まっていた。
認めて欲しくて、一人で山に。助けを呼んでも、誰も来ない。誰も住んでナイから。狩り人だって、晴れが続いた日の、昼にしか入らない。
暴れると、沈む。ジッとしていても、沈む。エグエグ泣いて、泥だらけ。烏が目を狙って、襲っていた。だから分かった、見つけられた。
倒れてた木を沼に刺して、掴まらせた。それからユックリ引っ張って、助けたんだ。忍びの子だった。
「長、お願いします。双と結んでください。」
「嵓の事は分かった。双の事は分らない。暴れ川沿いの、どこにある。」
「・・・・・・それは。」
悩むツヨ。
「結んで無くても双は、嵓を売った。」
カズの言う通り。
双樫の大木から、そう離れていない。分っているのは、それだけ。暴れ川からは、探しても見当たらない。だから守られた。知られなかった。
沢を登れば、辿り着くのだろう。しかし、どれだ。暴れ川に流れる沢は、多い。木の声が聞こえる人なんて、こちらには居ない。
祝を連れて来いとは言わないが、どこに在る。明かせないなら、信じられない。
犬が怖いようなので、外で待たせている。嘘か、罠か。確かめる術は、無い。
「お話し、します。」
フンフン、フフン。いつもの山歩き。大実社を清め、開けた所で、木の枝ポーン。楽しく遊んで、一休み。
「クゥゥン?」 アレレ?
まだ明るいのに、緋が来た。謡もいる。木に登った。夜まで、休むんだね。
「しのび、がっ、きらの?」
屈んでマルコを撫でながら、マル。
「キャン。」 キタヨ。
マル、スゴイね。ボクの声が聞こえるの?
「マル、マルコ。村へ帰ろう。」
水浴びをして、スッキリした大蛇。渦の滝を越えた、忍びに気付く。
「あっ、センさん。おかえい。」
「ただいま、マル。」
舟には、海の幸が山盛り。
「おかえり、セン。」
「ただいま、ノリ。手伝ってくれ。」
センは背負子を背負い、舟を頭に乗せ、運ぶ。ノリも背負子を。腕には箱魚籠を抱え、運ぶ。ノリコも背負子で。
マルもシッカリ、お手伝い。袋の紐を両の腕に通し、背負って運ぶ。
良く食べ、良く寝て、良く働く。しっかり学んで、楽しく遊ぶ、良村の子。
あんなに細かったマルも、健やかに。重い荷も、運べるようになりました。