7-62 手一杯
考えろ。
言っている事は分る。つまり耶万が、耶万じゃ無くても。南から攻めて来る大国が、霧雲山の統べる地へ。
その時、何が起こる。
奪われる。食べ物、命。負ければ送られる、南へ。男は奴、女は婢。売られて、それで、死ぬまで?
オレは、双は甘い。甘すぎる!
良村は東。曲川から攻めて来るのを、叩く。獣谷は真中。暴れ川から攻めて来るのを、叩く。残る西。鳥の川は、山裾の地が叩くだろう。
他が束になって戦うのに、良村は。獣谷の隠れ里は。
誰が助けてくれる? どこが助けてくれる! 里でも村でも、何でも。他に構ってイラレナイじゃないか。
良村と獣谷は、結んでいる。南からのも助け合って、支え合いながら戦うんだ。それなのに、何だ。双は双の事しか、考えていない。
暴れ川から攻めて来るのに、初めに当たるのは双。楢守の方が南にあるが、川から遠く離れている。だから双。
心を決める。という事が、こんなに重いなんて。
備え整えるなら先ず、楢守と結ばなければ。南から上がってきたら直ぐ、知らせて貰うために。
結ばなくても、頼めば知らせてくれる。それでも結ぶんだ。決して裏切らない、見捨てないと。
「良村を守る。それで手一杯だ。」
そうだよな。そりゃ、そうだ。
獣谷の隠れ里と組んで、命懸けで戦う。死ねば守れない。生き残らなけりゃ、守れない。負ければ終わり。だから、勝つ。
託された子を守り抜く。奪わせない。奴婢にしない、出来ない!
強い狩り人、強い釣り人、強い樵。田作り人と畑作り人は、薬にも詳しい兄妹。商い人は戦えないが、多くの事を知っている。
犬も強い。飼い主を守るために、戦える。子のように慈しみ育てられ、とても良く躾けられている。
釜戸社から一人、引き取られた。
蛇神の愛し子。祝の、とても強い力を持って、生まれた子。飼い犬は、釜戸山の使い犬。愛し子を守るためなら、命を懸ける。
大人が山を、子と犬が村を。皆で力を合わせ、守る。それが良村。ウチの祝が、そのように。
多くの里や村、国とも繋がっている。その一つに、双を。加えてもらうダケで良い。
「嵓。橡の大木から南。川を渡って、川から大木の長さを、二つ進む。そこから少し西。いろんな岩が見える。それを越えた所に、隠れ里がある。それが嵓。」
「強い狩り人と、忍びが居る?」
「その通り。何だ、知っていたのか。」
「いいや、知らなかった。」
あの辺りに誰かいる。何となく、そう思った。
狩りの跡と、戦いの跡が残っていた。消してあったが、直ぐに分かった。忍びが居ると思ったのは、二つ。木に残された傷と、獣の目だ。
いくら隠れても、獣は騙せない。木の裏、木の陰、枝の上。草陰、岩陰、風の上。どんなに上手く隠れても、匂う。獣とは違う、ソレが。
鼻が利かなくても判る。目さ。
人と獣じゃ、違うからな。戦場で感じるような目を、森から感じた。一人二人じゃ無い。アレは十づつ、群れで動く。
ひとり一人は離れているが、少なくても五つに分かれて、こちらを窺っていた。
「・・・・・・す、スゴイ。」
「で、嵓が何だ。双と付き合いでも?」
黙ってシゲの話を聞いていたカズが、ツヨに問う。