7-61 負ければ、終わり
「双は良村に、何を求める。」
「里を守るため、共に戦ってください。」
「断る。」
「なっ、なぜ!」
南からの強い力、勢いに脅かされ、恐ろしさを感じている。それは獣谷も、良村も同じ。だから備え、整えている。
戦、争い。妬み嫉み、恨み辛み。いろいろ全て。
山に手を入れ、守りを固める。食べ物、飲み物、着る物など、生き残るために要る物。雨風、暑さ寒さを凌ぐ家。それらを守る村、村を守る山。
ひとり一人が出来る事を、しっかり行う。
それからだ、他を頼るのは。
どんなに小さな事でも、コツコツ積み上げる。そうすれば、いつか報われる。そう信じて、努める。
オレたちは、ここまで備えた。ここまで整えた。だから助け合おう。
そう言われれば、考える。そこまで考えているのか、心を決めているのか。なら、共に。そう思える。
強いんだよな、助けてくれよ。早稲の生き残りなら、戦えるだろう。そう言われて、ハイとは言えない。助けようと思わない。思えない。
「し、しかし・・・・・・。」
「双は、決めたのか。心を。」
戦は殺し合い。争い傷つけ、奪い合う。命を。仕掛けても仕掛けられても、誰か死ぬ。必ず、死ぬ。殺される。
狩り人なら解るだろう。命を奪う、という事が。生きるため、食べるために狩る。それが狩り。
じゃぁ、戦は? 勝つために、戦う。勝つために、殺す。勝つために、奪う。で、何に勝つんだ?
巻き込まれないように、村を作った。巻き込まれないように、村を囲った。巻き込まれないように、村を広げた。巻き込まれないように、食べ物を蓄えた。巻き込まれないように、巻き込まれないように、備え整えた。
なのに、何でだろうな。
村を国に、国を大国に。力を持つ物が欲に溺れて、守らなくなった。虐げるように、搾り取るように、なってしまった。人として扱わず、殺してしまう。人として扱わず、死なせてしまう。
なんでだろうな。同じ、人なのに。
「それは、その。だからこそ、助け合おう。」
「双に、何が出来る。」
玉置や東山など、戦好きな国は多い。けど違うんだ、南の戦好きとは。
耶万はバケモノ。風見と早稲を合わせても、足りない。霧雲山の南にある、戦好きな国を合わせても、まだ足りない。アレはな、人では無い。
奴婢。分るか? 奴は男、婢は女。
罪人や、その縁の者を捕らえ、売るんだ。人を売るんだよ。卑しい身とされ、差をつけて取り扱われる。
同じ人さ。罪人だからって、許されない。縁の者まで酷く扱うなんて、決して許されない。なのに、大国は作った。人なのに人と認めない、奴婢を。
罪を犯さなくても、罪人にされる。売り物を増やすために。足りなきゃ攫って、気にいりゃ攫って。それでも足りなきゃ、戦を仕掛ける。
何にも悪い事して無いのに、いきなり攻められ、奪われる。
両の手足を縛られ、首を縄で繋がれ、ゾロゾロ。
若い男は、戦場へ。若い女は、いろいろ。年老いた者は殺されるか、死ぬまで扱き使われる。子は壊され、死ぬまで奴婢だ。
売られるか、使われるか。
負ければ、終わり。攻められてからじゃ、遅いんだよ。