7-58 祝の力を、一つに
良村の人って、良い人だなぁ。
話し合いが終わって、帰ろうとしたらね。くれたんだ、ドングリ団子。フフッ。パクッ、モグモグ。美味しいな。ホッペが落ちちゃう。
「あの、ドンさま?」
「はい?」
ドングリ団子に心を奪われて、つい・・・・・・。
「南で溢れた、闇の事です。」
「あぁ。耶万社より、広がりました。」
耶万は大貝山の統べる地に在る、大国。
闇が溢れて直ぐ。海神は海を、御閉じ為さいました。殺神は社と、守りたい全てを、御閉じ為さいました。
具志古神は、統べる地を急ぎ、御閉じ為さいました。一度は大浦川まで広がった闇も、すっきりピカピカ。
それから、だそうです。他の社も、次から次へ。バタバタ、サッサ。
「隠と妖怪は、守られました。しかし人は、闇に飲まれ・・・・・・。」
「で、しょうね。」
オミは思い出す。地が震え始まった、冬の戦を。
思いを残して死んだ人の魂が、隠に。それを悪しきモノが食らい、闇の靄になる。雪玉のように大きくなり、ドンドン取り込む。
あの時の闇には、イチが居た。強い思いを抱いたまま、死んだ若者。その魂が、ブクブク膨れる闇を抑え、留めていた。人の思いを、優しさを。
そんな闇を食らった妖怪が、嫌呂。悪しき妖怪だが、見るだけ。決して手を汚さない。
良山に、蛇神の愛し子がいた。清めと守り。祝の力を二つ、持って生まれた子。
愛し子を引き取り、慈しみ育てたのが、良村。深く傷つき、死を願った。そんな子を温かく、迎え入れた。
耶万、戦好きな大国。耶万神は、禍津日神。使わしめは、隠。
人に求められるまま、禍を。それで耶万は、大国に。祝も禰宜も居ない。
社の司は、大王の言いなり。巫にも覡にも、力は無い。なのに偽り、唆す。
あの地には。耶万には守ろうとする人が、一人も居ない。だから止められない。
闇を操っているのは、悪しき妖怪だろう。耶万に恨み、憎しみを抱いている。それを押さえられるのは、神。人なら、祝。
他の社から、祝を。それは難しい。耶万を心から救いたい、守りたいと願う人にしか、救えない。
「オミさま?」
「はい。」
「霧雲山の統べる地に住まう人は、守られるでしょうか。」
「・・・・・・守る、でしょう。」
曲川のは、良村が止める。上木や樫と、力を合わせて。心消、雲。要るなら桧、月、梟も動く。
暴れ川のは、獣谷の隠れ里が止める。良村と助け合い、支え合って。木菟や鷲の目も、動く。
鳥の川のは、山裾の地が。しかし、こちらは難しい。戦好きな国が前に出れば、荒れる。どさくさに紛れて、奪うだろう。
そうならないように、祝の力を一つに。
「ドンさま。双は、獣谷より南。結んで、戦うのですか。守りながら、押し返すのですか?」
オミに問われ、焦る。