7-57 罠だらけだモン
橡の大木か。崖の滝、重ね崖、渦の滝。さらに進んで、やっと着く。その、ずっと西。
獣谷の南。ゲンも知らない隠れ里。ノリかセンなら、何か。
知っていれば、話す筈だ。気づけば知らせ、確かめる。そうしてオレたちは、生き残った。
何も聞いてナイ。だから知らない。ゲンも同じ。
「オロチ様。双とは、どのような里なのですか。」
「双樫の大木を守り、他と結ばず穏やかに暮らす、豊かな里だ。同じような楢守とは、付き合いが有る。」
「楢守も、隠れ里でしょうか。」
「そうだ。楢の大木を守りながら、和やかに暮らす。山の奥深くにある、豊かな里。付き合いが有るのは、双だけ。」
山中、遠野、裏岩のような里か。それとも上木、樫、心消のような里か。
他の里とは、大きく違うだろう。
狩り人を寄越したのは、良い。が、いきなり山に入るか? 死ぬぞ。良山が罠だらけだと、知らない。知らないから一人で、ここまで来た。どうして?
隠か妖怪が、手を貸した。なら、なぜ吠えた。
シゲコは賢い犬だ。
ノリが言っていた。ノリコには見える、シゲコには分かると。神の使いか、社の使いか。そんなのが付いていれば、あんなに吠えない。
「オロチ様。オレには見えません。使わしめのオミさんは、祝の力が無くても、話せますか?」
「見えん、話せん。マルを頼れ。」
オロチ様が仰るんだ。良い隠か、妖怪だろう。
「なぁマル。力を貸してくれるかい?」
シゲに問われ、ニッコリ。
「はいっ。」
私に出来る事なら、お手伝いさせてください!
朝と夕。山歩きの時にマルが清める、石積みの社が、大実社。ここに大実神が、御坐すのか。
・・・・・・ん? ここは、どこだ。こんな道、あったか?
あれは、何だ。あんな建物、見た事が無い。
「シゲさん、どおしたの?」
「ん、いや。初めて見る建物だと、思ってな。」
「あの建もにょがっ、やしろ、よ。」
「そうか、あれが社か。」
マルに手を引かれ、ここまで来た。
祝の力が有れば、隠の世に入れる。初めて聞いた時は、作り話だと思ったが、そうか。
ノリが喜ぶワケだ。犬が多い。狐、兎、猪、鹿。熊、鷲、鷹。他にも、イロイロいるな。
「着いたよ、シゲさんっ。」
「ここは?」
「ヘグさんのぉおち。保ち、隠れねっ。使わしめ、らったの。」
「そうか。ありがとう、マル。」
言の葉が出ず、細くて小さかったマル。こんなにスラスラ、話せるように。
「双樫神の使わしめ、ドンです。遅くなり、申し訳ありません。狩頭より早く、こちらへ伺う筈だったのですが・・・・・・。」
モジモジする熊の隠、ドン。ちょっぴり食いしん坊。ドングリの次に、魚が好き。良く見ると、頬に鱗が付いている。
雪雲川にも白縫川にも、大きな魚が泳いでいる。双から良山まで駆けて、お腹が空いたのか?
「双の狩頭には、狩り小屋で休んでもらっています。」
両の手足は、縛りましたが。
「そうでしたか。ありがとうございます。」
罠だらけだモン、この山。良かったね、ツヨ。




