7-55 止せば良いのに
耶万の闇が、他に漏れる事は無い。遅かったが、間に合った。広がったが、止まっている。大貝山の統べる地に。
しかし、止まるのは闇だけ。人は動く。
耶万は大国、戦好き。川を上がった先に、豊かで広い地が。そう、知られたのだ。来る。仕掛けて来る、攻めて来る。
南から、北へ伸びる川は多い。霧雲山の統べる地には、三つ。曲川、暴れ川、鳥の川。
曲川は、良村。暴れ川は、獣谷の隠れ里。鳥の川は、山裾の地が守るだろう。
良村も獣谷も、戦い慣れている。早稲の生き残りは、とても強い。戦に備え、罠を仕掛けている。
「では!」
「良く考えよ、長。どちらも双より、北にある。」
「そっ、う、でした。」
楢守の祝に頼み、南の動きを探ってもらう。木の声を聞き、届けられる。しかし、いつ来るのか。どう仕掛けて来るのか。
どのような戦の具を、どれくらい持って来るのか。どのような毒を使い、どのように戦うのか。何も分かず、何も掴めず、どう戦う。どう守る。
「結ばねば。獣谷の、隠れ里と。」
「しかし祝。獣谷が他の里と結ぶとは、思えません。」
「双とは、結ぶ。・・・・・・かも。」
ニコッ。
当たって砕けろ。分からなくとも思い切って、遣るだけ遣れ。
砕けてしまっては、元の子も無い。しかし、そこまで決めて行えば、成し遂げられる。かも。
「かもカモかもカモ、喧しい! 思い立ったら、直ぐ動く。サッサと獣谷へ、使いを出せ。」
「はっ、ハイ。」
里長、すたこらサッサ。で、戻った。
「どうした。」
「獣谷の、どこに里が?」
・・・・・・!
獣谷は広い。名の通り、獣が多い谷なのだ。里を探してウロチョロすれば、パクッと美味しく食われてしまう。
木の声が聞こえる祝が行けば、辿り着けるだろう。しかし、行かせられない。長と祝は、頭を抱える。
「良村を頼るより他、ありません。」
「そう、だな。そうしよう。」
双の狩頭が、良村へ行く事になった。山を下り、舟で暴れ川を上る。白縫川へ入り、雪雲川へ。
「ワン、ワンワン。ワワン、ワン。」 トマレ、ドコカラキタ。シラナイフネ、ハイルナ。
狩り人? にしては、とってもオカシイぞ。犬を連れて無い。狩り? 一人で山に? 危ないぞ。何かあったら、どうする。
「ヒィィ。犬、恐いぃ。」
幼子の時、犬に尻を噛まれた。小さいからと棒で突き、怒らせたのだ。その子が育ち、狩り人に。いろいろ乗り越え、狩頭になった。父の後を継いで。
「あっち行け。シッシ。」
止せば良いのに、櫂で突っ突ついた。ヒラリと躱し、タッと舟へ。
「ヴゥゥ。」 ナニスンダ。
コイツ、嫌い。あぁ~あ、捨てちゃった。どうやって帰るんだ? 櫂が無きゃ、漕げないぞ。
「・・・・・・どこの、誰だ。」
飼い主シゲ、参上。
「ヒィィ。お助けぇぇ。」