7-54 酒の力を借りてでも
「で、祝。良い話とは?」
ドンッと尋ねる、使わしめドン。
「ハッ。そうでした、そうでした。」
里長。頷きながら、ニッコリ。
「この双。大貝山の統べる地から、霧雲山の統べる地に。流山の全てが、加えられた。」
大貝神より山守神へ、流山の地が譲られた。
南は楢の大木、東は橡の大木、西は双樫の大木。流された水豊社を軸に、グルッと。人の世も隠の世も、同じだけ。
この度、南の地。耶万より闇が溢れ、広がった。山守神と議られ、大貝神。『人の世の事、国つ神で』と、山守神に詰め寄られ、焦られたトカ。
「山守神が、か。」
ビックリなさる、双樫神。
「御酒を、と。」
祝、苦笑い。
それならば、有り得る。酒の勢いを借りてまで、迫った。奪いたかったのだ。長瀬山、いや流山を。
ある日、風見から溢れた闇を受け、長瀬山が崩れた。村ごと埋まり、水豊神。使わしめを放ち、御隠れ遊ばす。
それはそれは、御心を痛められた。統べる地が違えば、手出し出来ない。どうしようも無かった。とはいえ、思いは残る。
「なぜ山守神は、流山を。」
「ドン。社から溢れた闇は、深い。清めねば、闇に飲まれる。」
兄神が仰せに。
風見より溢れた闇は、深かった。耶万神、殺神、大貝神。三柱で追い込むも、勢い余って長瀬山へ。
耶万神と殺神は、慌て為さった。大貝神は有ろう事か、水豊神に丸投げ。すたこらサッサと、御逃げ遊ばす。
二柱に風見神。三柱では、どうにも。
風見へ駆け付けられた早稲神、沼田神。五柱で急ぎ、長瀬山へ。しかし、遅かった。長瀬山は崩れ、山ごと流れた。
同じ過ちを繰り返せば、天つ神より裁きが。急ぎ闇を囲み、清めねば。大貝神は、企て為さる。この度も、と。
「その前に、流山を奪われた。闇を囲う地は、他に無い。」
妹神が仰せに。
双樫神は、二柱で一柱。兄神と妹神で、一柱。よって何でも話し合い、助け合い、支え合う。いつでも、どんな時も、共に。
山守神、水豊神。大貝神、殺神、風見神。早稲神などなど。多くは、一柱の神。一柱で、御決め遊ばす。
「山守神は二度、彼の地に闇を投げ込むなど、決して許せぬ。認められぬ。そう、御思いに。」
悲しそうに仰る、兄神。
中つ国において、統べる地を譲るなど。
許されるとすれば、大社の大札。大国主神の御許しを得る他、無い。山守神は御許しを頂き、大札を。
流山が、霧雲山の統べる地に加わった。大貝山の統べる地から、闇を捨てられる山が消えた。
もう闇に怯え、恐れる事は無い。霧雲山の統べる地に、耶万の闇は届かない。
「大貝山の統べる地が、やっと閉ざされた。」
嬉しそうに仰る、妹神。
「では、この地は。」
「長、それは無い。」
祝が首を横に振り、言い切った。