7-53 隠は隠でも
獣谷の隠れ里。繋がっているのは、良村のみ。他とは結ばず、関わらず。ひたすら隠れて、暮らしている。
つまり、獣谷が双と結ぶなど、考えられない。だから良村を通して、話を進めるのです。
結べば、知られる。関われば、知られる。なら、同じような隠れ里を。
双が選んだのは、楢守。山奥で、誰にも知られていない。同じ考えを持って、生きている。どことも結ばず関わらず、ヒッソリ暮らしている、隠れ里。
獣谷の隠れ里は、双や楢守と同じ。隠れるように暮らし、里を守っている。
良村は、多くの村や国と繋がり、暮らしている。釜戸社の許しを得て作られた、とても強い村。その二つが、良村を守っている。
獣谷の隠れ里も良村も、早稲の生き残り。決して裏切らない、見捨てない。
良村が表、獣谷が裏。表と裏が助け合い、支え合って生きている。他とは異なり、命懸け。
良村と結んでいるのは、和やかに穏やかに暮らす、豊かな村や国ばかり。
争いを嫌い、戦を嫌う。攻めるより守る、仕掛けるより守る。そんな村や国としか、結ばない。
良村に認められれば、獣谷とも。良村と結べば、獣谷とも。
そうなれば助かる、かもしれない。ひょっとすると、もしかしたら、難しくても、助かる。カモシレナイ。
「かもしれない。かもしれない。で?」
「かもしれない。でも、かもしれない。」
「長。かもしれない、では動けぬ。」
「祝。かもしれない、でも動かねば。」
・・・・・・。見合う二人。
「で、どうする。」
双樫神の使わしめ、ドン。熊の隠である。
「ドンさま。いらしたのですか?」
長と祝、ビックリ。
「ドンさま。獣谷か良村に、社は。」
「良山には、大実社。大実神と使わしめが、今も。」
「では!」
「いや、難しい。」
良村の人は、見えぬものは信じぬ。よって大実神より、蛇神を崇める。
隠の世を統べる、はじまりの隠神。人の世では、牙の滝の主。牙滝神で在らせられた。
愛し子を守るため、継ぐ子に社を託された。御姿を現され、御名を大蛇神と。
見えぬ神より、見える隠。大実神より、大蛇神。
愛し子が石積みの社を、村の中に作った。良村の者は、蛇神をオロチ様と御呼びし、祀る。よって、大実社は頼れぬ。早稲社も難しい。
早稲神は使わしめと共に、社に籠られた。早稲には祝も禰宜も居らず、見える人は社の司のみ。
早稲社を守るのは、社の司。それが、早稲の決まり。
あの早稲で生き残っているのは、社を守り祀っているから。弱くても戦えなくても、生かされている。
「ドンさまも、隠ですよね。」
控え目に問う、里長。
「隠は隠でも、使わしめ。大蛇様は隠神ぞ。隠の世を統べる、蛇神で在らせられる。」
「熊神に御願い申し上げ、れば?」
「難しかろう。」
先の神議り。
天霧山の烏神、乱雲山の鼠神、霧雲山の狗神、はじまりの隠神。四柱で議られた。
熊神が御坐すは、東。
神成山より使い隠を放たれ、荒ぶられたトカ。なんでも『人の世に、嫌気が差した』と、仰ったそうで。