3-9 爆発した怒り
「兄い、兄い。」
あぁ、セツ。そこにいたのか。
「シゲ、こっちだよ、シゲ。」
あぁ、父さん、傷はもういいのかい?
「兄い、シゲ兄い。」
あぁ、おまえたち。そんなに走って。
「シゲ、シゲ。」
あぁ、母さん、笑ってる。
「シゲ、シゲ、しっかりしろ!シゲ。」
熱い。燃え出しそうなくらい、熱い。このままじゃ、死んじまう。
「シゲ、起きてくれ。シゲ、シゲ。」
どうしよう。傷にいい草はあるのに、熱を下げる草はない。どうしよう。誰なら持ってる?
「シゲ、まだ行くな。戻ってこい。シゲ。」
頼む、頼むから、目を開けてくれ。
「クゥ~ン、クゥ~ン。」 オキテ、オキテ。
ねぇ、苦しいの?モフモフさせてあげるよ。だから、起きてよ。笑ってよ。
「クゥ~ン。」 ネェッタラァ。
犬だって、わかるよ。シゲさん、良い人だって。いつだって、やさしく撫でてくれた。そこに転がってるタツとは大違い!
「クゥ~ン、クゥ~ン。」 オキテヨ、オキテ。
そうだ、そうだ!ごはんもくれた。お食べって。それに、賢い犬だって、いつも言ってくれた。
「クゥ~ン・・・。」 ネェ・・・。
神様、連れて行くならタツにして下さい。シゲさんは、とっても良い人です。きっと、いろんな人を助けます。
タツなら、すぐにでも連れてって下さい。でも、でも、シゲさんは、連れてかないで!
昼を過ぎたころ、ノリが言った通り、嵐が去った。シゲの熱は下がらない。燃え出しそうなくらい熱いのに、シゲは美しい顔をして、笑っている。
「兄さん、セツの子が、二人とも死んだ。」
コノが、真っ青な顔をして、飛び込んできた。死んだのか。セツの後を追って。
「うつる病かもしれないって、今ごろになって騒ぎ出したよ、あの親子。」
ケッ。神様、いるならアイツら連れてけよ。どうせならさぁ。
「うっ、つるっの、か。コノ、どこか痛むか?気持ち悪くないか?咳は出てないか。」
「兄さん、私はこの通り!婆さんと同じものを食べてるから、顔の色もいいでしょう。」
「あっ、あぁ、そうだな。でも、コノ。体を労われ。何かあったら、どんなことでもいい、兄さんに言うんだ。いいね。」
「ふふふっ、ありがとう、兄さん。」
戻ろうとしたコノが、振り返って言った。
「そうだ、あの、骸をね、焼くって。うつるなら、埋められないって。作ったものに、うつるとか何とか言って、騒いでた。」
何を言ってやがる!そんなことで病になるか!もし、そうなら、とっくに人なんて死に絶えてらぁ!
「なぁ、コノ。どこで焼くんだい?嵐が去ったばかりで、湿ってる。」
「知らない。わからない。ごめんね。」
「いや、コノは悪くない。」
「そうさ、気にするな。」
「家ごと、燃やすんだ。」
シゲが、消えそうな声で言った。
「シゲ!良かった。気がついたか。」
「ああ。コタ、あのな。」
「なんだい。」
「家の者が、一度に死ぬとな、家ごと燃やして弔うんだ。セツと、子の骸・・・・・・。」
顔の色が悪い。とても悪い。
「晴れた日に、早く、弔って。」
そう言うと、シゲが気を失った。
「そうだな。わかった、そうしよう。」
シゲを抱きしめ、ノリが言った。
しばらくして、外が騒がしくなった。早稲の男どもが騒いでいる。近づいているようだ。そして、聞こえてしまった。叫ぶように言うソレが。




