7-51 悪い話
双樫の大木の近くにある、双の隠れ里。山奥にあり、誰も来ない。
かなり歩くが、下れば暴れ川に出る。付き合いがあるのは、楢守の隠れ里だけ。
楢の大木の近くにある、楢守の隠れ里。こちらは山だらけ。山深すぎて、誰も来ない。付き合いがあるのは、双の隠れ里だけ。
双も楢守も、隠れ里。
祝には、木の声が聞こえる。古の祝が思い付きで、声を掛けた。それが切っ掛けとなり、付き合う事に。
「・・・・・・ハァ。」
双の祝。思わず、溜息。
「何か、思い悩むコトでも?」
里長が尋ねる。
「良い話と悪い話、どちらから。」
「悪い話から、御願いします。」
「では、悪い話。」
遥か南。大貝山の統べる地にある大国、耶万から闇が溢れた。霧雲山の隠の守が逃げ帰るほど、深く濃いのがドバドバと。
霧雲山の頂を守る、祝辺の守。強い力を持つ祝にしか、務められない。そんな祝が、逃げ帰った。
「まっ、まさか。」
「その、『まさか』よ。」
耶万から広がった闇は、大貝山の統べる地を全て、飲み込んだ。
耶万から闇が溢れて直ぐ、多くの神が御閉じ為された。守る地や、統べる地を。
海神は海を、御閉じ為された。殺神は社と、慕い崇めてくれる人が暮らす村、全てを御閉じ為された。
大稲神、大倉神、実山神。三柱は村ごと、御閉じ為された。
風見、早稲、良那、儺火など。統べる地に関わらず、次から次へ。村でも国でも、同じように。
大貝山の統べる地は閉じられたが・・・・・・。
「でっ、では。」
「儺火神より、具志古神へ。」
海が閉じられて直ぐ、儺火神は国ごと、御閉じ為された。具志古社へ急ぎ、使わしめを。
よって大貝山の統べる地よりも早く、具志古の統べる地は閉じられた。
海が閉じられて直ぐ、良那神は国ごと、御閉じ為された。津久間社へ急ぎ、使わしめを。
よって津久間の統べる地は、大貝山の統べる地よりも早く、閉じられた。
「それは良ぉ、御座いました。」
「長。それで終わりだと、御思いか。」
耶万は大国、それも戦狂い。あちらこちらへ、戦を。
真中の七国、鎮の西国。海から仕掛けては奪い、川から仕掛けては奪い。
闇は舟で、他の地へ運ばれた。
鎮も真中も、耶万の闇に。耶万が持ち込んだ病で、多くの命が奪われた。今も奪われ続けている。
「・・・・・・祝。」
「耶万は、北を目指す。」
「アァァ! 何てこったぁぁぁ。」
里長が頭を抱え、叫ぶ。
双が付き合っているのは、楢守だけ。楢守は深い山奥。幾つも越えなければ、川に出ない。双も山奥にあるが、暴れ川が近い。煮炊きの煙を見られれば、終わる。
耶万は大国。備え過ぎて困る事など、無い。今、直ぐ動かなければ!