7-50 全道閉鎖
社まで逃げ帰り、ホッ。
「大貝神。障り、痛みナド。」
「無い。ありがとう、土。助かった。」
「はいっ。」
ウルウル。
念のため、仕掛けた糸は切ってある。辿る事は出来ない。とはいえ、ノンビリして居られない。
ほんの少し持ち帰った闇を、隈無く調べる。恐ろしい思いはしたが、得られた。耶万社から広がった、闇の全てを。
神は急ぎ、御閉じ為さった。耶万から広がった闇を、大貝山の統べる地から決して、出さぬようにと。
「あの蜘蛛、闇を裂いて。」
土の中をグネグネ進んだのに、真っ直ぐ追って来た。
「隠でも禍津日でもない、使わしめに?」
暴れれば暴れるほど、力を吸われる。
「なら。」
近くの人を乗っ取れば、出られるはず。
胸を押さえながら、フラフラ。息が、胸が苦しい。頭が痛い、体が重い。
耶万は豊かな国、そう聞いて来たのに。聞いて、来た。・・・・・・どこから。オレは、何しに耶万へ。
何も見えない。いや違う。目が、開かない。
「立て。力いっぱい、立ち上がれ。」
頭の中で、声が。・・・・・・誰だ。
「死にたくなければ、突き破れ。」
死ぬ? のは、嫌だな。
「グッ。」
何だ、これ。硬くて重い、ベタベタする。
「ヲォォォ。」
ブチッ、ブチブチッ。ビリビリッ、ビリッ。
息が、胸の痛みが消えた。苦しくない。体が軽い。オレ、助かったのか。
あれ。耶万の空って、こんな暗かったっけ。こんな低かったっけ。こんな・・・・・・。バタッ。
「何と脆い。少しの闇にも、耐えられぬとは。」
まぁ良い。
「始めるとしよう。」
人など、幾らでも。
「豊さま。この揺れは。」
「落ち着きなさい。」
一度は、統べる神が変わられた事で。二度は、光と闇が交わった事で。三度は、大きな闇が動いた事で揺れた。
大貝神から、山守神へ。流山の全てが、霧雲山の統べる地となり、守られる。
水豊神も山守神も、水が豊かな山の神。
長瀬山が流された時、仰った。『他の神が統べる地。何も出来なかった。手を差し伸べる事さえも』と。
名は流山に変わったが、この地は水豊神が慈しみ、守られた地。山守神に、霧雲山の統べる地に加えられた事は、幸いだと思う。
光と闇について。こちらからは、どうしようも無い。闇の動きには、備えよう。
隠の世は、閉じられた。中つ国の事は、霧雲山に任せる。根の国は隠の世と結び、備えている。だから、飲まれる事は無い。
「中つ国への道を、全て閉ざす。」
「はい。」