7-48 真の過ち
「これにより流山、全て。霧雲山の統べる地と、相成りました。よって、東は橡の大木。西は双樫の大木、南は楢の大木と。」
「いや待たれよ。なぜ、そのように。」
シズエの話を止め、問う。
「あらぁ? あらあらぁ?」
弾けるような笑顔で、山守神。
「どこぞの神が御見捨てになり、社が流れたのです。南へ。隠の世、水豊社から流山の端まで。グルッと繋げば、そのように。」
淡淡と語る、シズエ。
「そぉお、だっ。出雲へ参りましょう。ウフッ。」
ノリノリです。纏めて済ませるオツモリですね。
「はい。では、これにて。」
山守神の使わしめシズエ、キリリ。隠の守たち、ニコッ。
「お、お見送りを。」
大貝神の使わしめ、土。大慌て。
ブツブツ。ブツブツ。ブツブツブツ。
「大貝神?」
「土! 逃げよう。」
「・・・・・・はい?」
マズイ、これはマズイ。悪意は魂ごと消えた。擦り付けようにも、骨すら残って無い。だから、嫌呂か悪鬼に。そう思っていたのに!
流山を取られた。任せたのだが、差し上げたのだが、譲ったのだが、渡したのだがぁぁぁ。
終わった。全て、何もかも。終わったのだよ、土。だから逃げよう。
「大貝神。それは、難しいと思います。」
「ん?」
あの結び。
一つ。流山を、霧雲山の統べる地に加える。
二つ。耶万から広がった闇を、大貝山の統べる地から、決して出さぬ。
三つ。耶万から広がった闇の源を祓い、清める。
神の、神による、神のための結び。しかも、大社の大札。
狐が操る神輿は、風より早いとか。今から追いかけても、姿すら見えないでしょう。
杵築大社。大国主神が御認めになれば、天つ神でも。違えば、どのような罰が下るか。ブルルッ。
「耶万へ。耶万社へ行くぞ、土。」
「はい、喜んで。」
一つ、二つは良い。三つが、難しい。なぜ祝が隠では無く、妖怪になったのだ。祝だろう、祝。巫でも覡でも無く、祝。
イヤ、イヤイヤ。
祝辺の守が、隠の守が逃げ帰った。それだけ深く濃い闇が、耶万から広がった。と、いうコトになる。ハァァァ、困った。困った事になった。
何とかして、闇の源を絶たねば。
その前に先ず、闇を封じ込める。大貝山の統べる地から、決して出さぬ。出せば終わる。徒では済まない。
闇の全てを知らなければ、扱えぬ。よって、善し悪しを明らかに。全てを疑い、問う。
どのような物なのか、中身は、本は。質、真、生地。残らず、糺さねば!
この度、耶万が犯した罪、科。気づきながら改めず、捨て置いた。真の過ちである。
逃れられない、知られてしまった。
山守神、矢弦神、雲井神。隠の世を統べる、はじまりの隠神。そして・・・・・・。