7-46 長瀬山の悲劇
何とかって、仰いますがね。御覧ください、あの闇を。あんなに深くて濃い闇、手に負えません。ハァ。どう為さる、耶万神!
この度の事は、私の手に余る。闇をドウコウ出来るのは、隠神か禍津日神。耶万神は、禍津日神。だから任せようっと。
・・・・・・そのような目、為さらないで。私は土を司る、直日神。闇や禍を嫌い、社に籠る、穏やかな神なのです。
「ひろい、ひろすいるぅ。」
グスッ、グスン。・・・・・・ついに、第三段階へ。
「あの、山守神?」
大貝神の御声が、裏返った。
「あらたがぁ、そんなっ。そんなっ、らからぁ。長瀬山がぁぁ。」
サメザメ、サメザメ。オォヨヨ、オヨヨッ。
水に恵まれた、山の神。たんと御酒を召し上がり、涙の備えは整いました。元より、涙脆い神です。それはもう、滝のように流れます。
「長瀬山、ですか?」
「そおぉ、よぉ。あらたがぁ、見捨てたぁぁ。」
ドバァと、涙が。
「そっその。なぜ今、長瀬山が?」
「あらたっ!わすえたの? ひろい、ひろすいるぅ。」
ヒック。グスッ、グスン。
「忘れてなど、居りません。」
考えろ、長瀬山? 聞いた事は有る。えぇっと、どこだったか。・・・・・・ん。もしかして、あの山か?
「流山ですよ。大貝山の統べる地の、北の果て。大貝神が御見捨てになった、水豊神の。」
悪ぅい顔をして、隠の守が囁く。
「ハッ、あの山か!」
「やっぱり! わすえてたのねぇぇ。」
忘れてました、思い出しました。だから、えっ? ズズイッと顔を近づけられ、ジィィィ。ッポ。いや待て、何だ。ポッ、って。
そうだ、長瀬山。あの時も、闇が広がったな。風見から、だったか。それで・・・・・・。
「一柱では、どうにも。と、なり・・・・・・殺神に。」
囁く、隠の守。
「ハッ、そうだ。」
全てを思い出され、大貝神。グイッと、酒を呷られた。
その昔。風見から溢れた闇が、大貝山の統べる地を覆った。闇の事なら禍津日神に、と御考えになり、大貝神。耶万神に丸投げ。
一柱では止められない。そこで大稲神、大倉神、実山神。三柱の直日神に応援要請。
しかし、我が道を往く三柱にアッサリ断られ、殺社へ。
耶万神、殺神。二柱がかりで大貝神を引っ張り、風見から闇を、追い払おうと為さった。しかし勢い余って、長瀬山へ。
にも拘わらず、あろうコトか大貝神。水豊神に丸投げ。
耶万神、殺神、風見神。応援に駆け付けた早稲神、沼田神。五柱で駆け付けるも、手遅れ。
大規模土砂災害により、山ごと流れていた。
アッという間に埋まり、多くの命が奪われた。そして、隠の世へ。
水豊神は全ての使わしめを放たれ、御隠れに。その時から長瀬山は、流山となった。
流山の保ち隠、豊。水豊神に放たれた、使わしめの一妖である。因みに今でも、大貝神を恨めしぃく、思っている。