7-44 最後まで聞こうよ
「ヴヴヴヴ、ヴァァア。」
バタッ。ピクッ、ピクピク。・・・・・・ガバッ。
「神は仰せです。『時は来た。兵を集め、大貝山へ』と。」
目をギラギラさせながら、巫。過ぎるほど大きく、表した。
耶万社には、祝も禰宜も居ない。だから代わりに、巫や覡が詰めている。
巫にも覡にも、祝の力は無い。だから見えない、聞こえない。
社の司には、見える。見えない物は見えるが、祝の力は無い。社の司が死んだ時、継ぐ子の誰かに、力が移る。その子が次の、社の司に。
今の耶万で見えるのは、社の司タク。見えそうなのは、継ぐ子アコ。アコは良那に助けられ、耶万を離れている。
つまり今、見えるのはタク、一人だけ。
タクがアコを出したのは、恐れたから。アコに力が有ると知られれば、大王に捨てられる。そうなれば、どうなる。大王は気が多く、せっかち。
「次、覡。」
「はい。」
静静と前へ出て、平伏す。そして・・・・・・。
「ヲヲヲ、ヲォォォ。」
バタッ。ピクッ、ピクピク。・・・・・・ガバッ。
「神は仰せです。『社に血を吸った剣を捧げ、祈れ。そして奪え』と。」
そう言い残し、覡がドタッと倒れた。
大貝社、か。
いつだったか、聞こえた。ここ耶万は、大貝山の統べる地だと。使わしめは蜘蛛で、闇を纏っていると。
そうか、闇か。
耶万神は、禍津日神。大貝神は分からんが、直日神が蜘蛛を置く? そうは思えない。それに、求められた。突き殺し、血を吸わせた剣を。
禍津日神だ、違い無い。
耶万神、大貝神。二柱の禍津日神が、御導きくださる。そうだ。きっと、そうだ。
「ヴヴ、ヴヴヴギャッ。」
バタッ。
先ほどの巫が叫び、倒れた。・・・・・・御告げか?
「キエェェェェェ!」
バタッ。ピクッ、ピクピク。
叫んで倒れ、動かない。
・・・・・・ガバッ。
「グァハッ。ゴホッ、ゴホゴホッ。」
起き上がって直ぐ、激しく咳き込み、また倒れた。
「ヴゥゥゥ、ギャァァァァァ! ガガガガ、キエェェ。」
ブルブル、ガタガタガタッ。ドタッ。・・・・・・。
「イソゲ。チノアメヲ、アノツルギデ。」
巫が指差したのは海を渡り、儺国から奪った、鉄の剣。アレは重く、戦には向かない。飾りだと思っていたが、そうか。
あの剣を軽く振り回せる者が、やまとを手に入れる。競い争い、勝った者にしか扱えない。そんな剣だからこそ、引き寄せられたのだ。耶万に!
「オソレルナ。ウテ。」
バタッ。
・・・・・・ん? 討て、と言ったか。誰が、誰を。
「ユケ、ススメ。ヤマトヲ、ヒトツニ。」
倒れていた覡がスクッと立ち上がり、叫ぶ。
「大王。神の、神の御告げです!」
「そうか。で、どのような。」
「この剣で突き殺し、血を吸わせっ。」
グサッと突き刺し、貫いた。知らせに飛び込んできた男が、バタッと倒れる。