7-43 狂信者
「大王。真中より差し出された奴婢、調べ終えました。」
「で、どうだ。」
「使えるモノは、鎮の西国へ。残りは薬漬けにし、北へ送りました。」
「フンッ。寄越すなら、マシなのを寄越しやがれ!」
「御尤も。」
真中の七国は、弱い。弱いから群がる、弱いから固まる。弱いから、夢を見る。争いの無い国? 戦の無い国? 皆、等しい国? 笑わせるな!
争いが有るから、戦になる。戦が有るから、負ける。負ければ全て、搾り取られる。奴婢を認め、定め、使う。そんな国に見る夢など、無いわ。
見るな、夢など。見ろ! 今この時、起きている全てを。奪え、動ける人を。奪え、使える人を。奪え、若い女を。産ませろ、強い子を!
「大王。対国、儺国、珂国の三国。やっと、動きました。」
「で。」
「どれも若く、健やか。真中と違い、鍛えてあります。」
「攫ったか。」
「はい。兵の妻、子、思い人。長の娘、王の娘も、こちらへ。」
「良くやった!」
鎮の西国から耶万まで、舟で海を行く。三国とも、大きな舟を持つ大国。兵、戦の具。食べ物、舟、女。全て、耶万のモノに。
奪えば奪うほど、耶万は大きく、強くなる。
北の地から風見も、早稲も手を引いた。なら、耶万が奪う。良く肥えた、豊かな地。水に困らない、豊かな地。
戦好きが多く、奪いたいだけ奪える。人も、物も、全て!
「大王。良那の使いが、大磯川の向こうより、申しております。『そちらへは行けぬ』と。」
「なにぃ?」
「迎えに遣った継ぐ子が、倒れました。それを見つけ、決めたそうです。『このまま良那へ連れ帰り、癒す』と。」
フッ、それは良い。
「許す。『病が癒えるまで、頼む』と、伝えよ。」
「ハッ。」
良いぞ、良いぞ。真中で散蒔いた病だ。持ち帰れ! そして、広めろ。そうだ。確か良那には、強い祝が居たな。女なら孕ませ、男なら子を作らせる。
「大王。生まれました、男と女。胎に二人、入っていました。」
「でかした!」
二つ子。それも男と女。御告げ通り、生まれた。大王だ。やまとを一つにし、ワシが王となる。
「ハハッ。ワァッ、ハハハ!」
笑いが止まらん。
「どうした。」
なぜ暗い顔をする。
「産んで直ぐ。女が死にました。」
「死んだのは、親か。」
「はい。」
「捨てろ。」
「ハッ。」
耶万が、やまとを統べる。王は一人、ワシが大いなる王! 耶万神。心より、御慕い申し上げます。
これからも耶万を、お守りください。
全てを奪う。奪え、奪い尽くせぇぇぇ!