1-4 友よ
ジル王は出会えた。ジル王子がいたから、生きられた。
先代は塔から。先々代は首を。その前も、その前も。皆、自ら命を絶った。何もなければ次代も。
「わかりました。」
ジル王の手をとり、微笑む。
「ありがとう、友よ。」
数日後、ジル王は旅立った。大往生だった。
数年後。
新たな城主を迎えた。三歳の化け王、エマ。内気な女王。三歳の誕生日、誰かの声が頭に響いた。
「ジル王子に、会いに行きなさい。」
聞こえたのは一度きり。とても優しい声だった。だから、会いに行った。城内に咲く、ユリの花を持って。
「はじめまして、ジル王子。私はエマ。導かれ、参りました。」
格子からユリを差し入れ、微笑んだ。姿かたちは似ていない。けれどジル王と同じ、夜空のように美しい瞳をしている。
「はじめまして、エマ女王。」
ユリを見つめ、微笑む王子。うっとりと見蕩れる。
「その誰かさん、私の友です。」
ハッとして、答える。
「そうですか。」
「ジル王。先代の化け王です。」
思っていたより、ずっと楽しかった。嫌なことは多い。けれど、待っている。優しく美しい王子様が。しかし、その幸せは十年で終わる。
エマは泣かなかった。困らせたくなかったから。けれど、一人きり。残されてしまった。エマは泣いた。泣いて、泣いて、泣いた。一人にしないでと。
涙も出なくなった。フラフラと塔の上へ。飛び降りるためではない。ジル王子の死を伝えるために。
隣国は動かなかった。ただ一言、お任せしますと。エマは怒った。誰かさんから奪った、氷の才を使おう。それで滅ぼしてやろう!
でも、やめた。言っていたから。叶うなら、ジル王のそばで眠りたいと。いつだって、ジル王の話をする時、ジル王子は楽しそうだった。とても、とっても楽しそうだったから。
エマは、化け王は、化け王城から出られない。塀の中、散歩するくらい。だから辛くなると、塔の上から空を見た。ジル王子が言ったから。
ジル王と二人で、空の上から見守っているよ、と。
エマはお伽噺が好きだった。お気に入りは、お姫様と王子様の恋物語。最上階にある自室で、何度も思い描く。
ジル王子みたいに優しくて、美しい王子様。この塔に迷い込んで、私を見つけるの。そして。
「キャッ、どうしましょう。」
枕を抱きしめ、悶絶する。恋する乙女は知っていた。いや、信じていた。
「いつか必ず、エマだけの王子様に会えるよ。」
ジル王子の声がする。私の幸せを願ってくれた。ジル王の、たった一人の友。一人だっていいじゃない。私には、王子様がいるもの。いつか、必ず会えるわ。
そして、恋をするの。