7-42 落ち着け、確かめろ
「お久しぶりです。御変わり、ありませんか?」
仰いな、サッサと。ね、良い神だから。
「お陰様で。」
酒置いて、トットと帰れ。
「それは、それは。」
知っています、聞きましたよ。
「北は、冷えるでしょう。」
頭を冷やせ。人の事は人に任せて、見守る。それが神!
山守神、大貝神。向かい合う二柱。和やかぁぁに、フフフ、ハハハ。
・・・・・・どうなる。このまま、睨み合い? ブルルッ。どど、どうしよう。
「そうそう、こちらを。」
銘酒『霧雲』を、ドンッ。瓢箪ではなく、甕にタップリ入っています。
「ハハッ。真昼間から、飲みますか?」
大貝神、ニヤリ。やまとの神は、御酒好き。
「オホホッ。」
山守神、ニヤリ。
闇を止めて貰わねば! 大貝山の統べる地に。決して外へ漏らすコト無く、シッカリと!
「ヒドイな。」
隠の守が呟く。
大貝社から、耶万社へ。寄り道せず、真っ直ぐ向かった。この地で何が起きたのか、何が起きているのか。その全てを見て、伝えるために。
話には聞いていたが、コレほどヒドイとは思わなかった。
闇が溢れて広がり、飲み込まれた耶万。隠、妖怪も闇堕ちし、躊躇うコトなく、人を食らっている。
隠の世、和山社。急ぎ、神議りが開かれた。
人の世は人で、隠の世は隠で。天つ国、中つ国、根の国。何れも同じ。なのに、動かれた。
隠の世は、闇に強い。だから、妖怪の墓場が在る。
中つ国では生きられない、隠や妖怪を住まわせ、守っている。人と隠、隣り合う二つの世。とても広く、豊か。
霧雲山は、隠の世から切り離された。妖怪の墓場も、閉ざされている。
もし闇が溢れても、他へ漏れる事は無い。それでも常に、目を光らせる。統べる地を守るために。
耶万は怠り、闇に飲まれた。もう手遅れ、戻れない。
「行くか。」
耶万社を目指す。先触れを出さずに、訪ねる。有り得ない事だが、確かめねば。神は御坐すか、御隠れか。
なんだ、この闇は! こんなに深く濃い闇、人に? 一溜りも無いぞ。
どす黒いコレは、血だ。あっちにも、こっちにも飛び散っている。首でも、切ったのか。
ゴロンッ。
ん? ・・・・・・今、何か。
「ヒィィッ!」
生首だった。
足裏に、ヌチャッと粘る。ま、さか。いや、そんな。しかし今、確かに。そして、転がった。
触れ、られる。人の、切り落とされた頭に。
なぜ、なせだ! 何がっ! 落ち着け、確かめろ。違っているかも、しれない。そうだ。先ず、確かめる。全ては、それから。
隠は触れられない。中つ国では、触れられない。なのに触れられた。触れられないハズの全てに、触れられる。
どんどん先に、歩いて行く。息が苦しい。ここは中つ国。根の国では無い! なのに何だ。何なんだ、この闇は。