7-41 素面で乗り切れ
山守社での神議り。決まって直ぐ、先触れを出す。使わしめでは無く、隠の守に任せた。
闇が広がっていると、聞いたから。
・・・・・・ハァ。信じられない、信じたくない。
霧雲山の統べる地を守るのは、山守神。と、言われてしまえば逃げられない。祝辺の守が守るのは、霧雲山。だから、押し付けられない。
分かっています、解っています。隠神が動かれる前に、国つ神である私が。中つ国で起きた事。隠の世を巻き込めば、とても困った事に。
・・・・・・ハァ。帰りたい、でも帰れない。
久しぶりね。明るい内から、輿に乗るなんて。
出雲へは、いつも夜。だから、誰にも見つからない。コッソリ伺い、コッソリ御暇。フフッ、朝日が眩しいわ。
素面では、乗り切れないと思うの。だから、飲んじゃおっと。
「山守神。」
「なぁに、守。」
銘酒『霧雲』
大貝神へ、御渡し為さるのでは? そもそも、朝っぱらから飲んだくれますか。そうですか。そうなのですね。それは、それは。
「ねぇ、守。」
「はいぃ?」
そ、そんな目で見ないで。
私だって、御酒に逃げたくナイ。でもね。・・・・・・だから、そんな目で。分かりました。分かりましたから、少し落ち着いて。
ほら守、山が輝いているわ。美しいわね。霧雲山へ帰りましょう。
・・・・・・笑って。おねがい。
大貝社の真上にて、隠の守。山越烏から離れ、舞い降りた。烏はクルッと回って急ぎ、山越へ。
使わしめ土。巣穴から出て、ペコリ。
山越烏を見て、使わしめだと思った。なのに、祝辺の守。平良の烏では無く、山越烏に乗って来た。つまり山守神が、大貝社へ。
「山守社より、使いが参りました。」
「烏は。」
「山越。飛び降り、烏は戻りました。」
「・・・・・・通せ。」
社に籠られ、御出に為らない山守神が。
人が。耶万の人が、招いた禍。大貝山の統べる地ではあるが、それだけ。しかし・・・・・・。
隠神よりは、良いか。にしても耶万神。どう収める。
天霧山でも乱雲山でも無く、霧雲山が動いた。矢弦神でも雲井神でも無く、山守神が御越しに。
時が無い。逃げられぬ。良い考えでも? いや、無いか。
「霧雲山より、山守神。御出でに。」
使わしめ土、平伏す。
「これは、これは。御早い御着きで。」
大貝神、ニコリ。
烏に乗って来た守は、耶万を探っているのだろう。
祝辺の守。人の守は王として、導くと決めたトカ。隠の守は、これまで通り。人の守は一人。隠の守は、幾らでも。
隠になっても、祝の力を失わない。消えない、死なない、衰えない。隠は隠。闇に飲まれても、闇に溺れても、戻る。それが祝辺、隠の守。
もう掴んだか、禍の尾を。