7-38 言ってなかった?
走りながらでも、話が出来る。忍びってスゴイ。
五つの忍びは考えた。霧雲山の統べる地。その端で落ち着いて話せるのは、蔦山か良山。
影と雲は、良村と結んだ。桧、月、梟が後見に。長に頼んで、麓の家を借りよう。
良村は、獣谷の隠れ里と結んでいる。霧雲山の忍びが来る事もあるが、助け合える。それに、他の忍びとも繋がっている。南からの禍を退けるために、しっかり備えている。
いや待て。このまま行けば、夜遅く。我らに気づいた犬が吠え、騒ぎに。そうなれば、叩き起こしてしまう。
良村は子を、何よりも慈しむ。子を守り育てるために、早稲を出たようなもの。いつだったか、そう聞いた。
化け王、ブラン様。獣谷の隠れ里、他の忍び。霧雲山に釜戸山。狩り人、釣り人、商い人、樵。馬守や岩割など、他の村や国とも繋がっている。
良山は守りながら戦える、強い山だ。怒らせたくない。少しかかるが天霧山、矢弦社まで行こう。それから共に。
五人は見合い、頷く。どうやら、同じ事を考えていたようだ。
天霧山、矢弦社。叩き起こされた祝、ウツラウツラと舟を漕ぐ。いつも早起き、社の司。呆れながらも優しく、祝を起こす。叩き起こされる前に気づき、起きた禰宜。社の司と祝を放り、身を乗り出して、話を聞く。
一人でもシッカリしていれば、社は回る。ハテ、前にも同じようなコトが??? それは扨置き。
「鎮の西国が、攻めて来る。」
影が纏めた。
「ドッと、束になって。」
雲が加える。
「耶万に押し寄せる。」
月も続く。
「終わりだ。止められない。」
桧がニコリともせず、言った。
「固める! この地の守りを。」
梟が言い切る。
「獣谷の隠れ里は、表に出ない。出られるのは良村だけ。」
獣谷の隠れ里。後見は祝辺、人の守。ハッキリ言って、頼れない。当てに? ないナイ。
里長は妹の骨を抱いて、早稲を出た。隠れ里を作り、生きるために逃げた人たちを救う。そう決めて。
幾ら助けても、守れない。逃げても暮らせなければ、生きられない。落ち着くまで匿い、逃がす。そのために作られた、隠れ里。
良村。後見は、釜戸社。狩り人、釣り人、商い人。樵、田の人、畑の人。すべて揃っており、強い。早稲の生き残りで、戦い慣れている。
良山から北へ南へ、東へ西へ。アチコチ出向き、仕入れて来る。食べ物、着る物、生きるのに要る物。他にもイロイロって、忍びか? 違うケド。
神、使わしめ。隠の世、妖怪の墓場。全て揃い、守られている。それだけでは無い。はじまりの隠神で在らせられる、蛇神が御坐す。愛し子を守るためなら、御力を揮われるだろう。
「どちらも、アンリエヌと結んだ。」
禰宜の言の葉に、雲を除く忍びたち。目を剥いてアングリ。
「言ってなかった?」
「聞いとらんっ!」
四つの忍び、雲を見つめる。
・・・・・・ハハッ。




