7-37 御早く
蔓の川の外で待つ。許し無く良山に入れば、命が無い。
「キュゥン? キャン!」 アレェ? コノニオイ!
知らない。でも分かる。忍び! この感じはね、悪い知らせだよ。きっと。
タッと、大実社へ走る。それから鼻をクイッと上げ、クンクン。ウン、違い無い。飛ぶように近づいて来る。・・・・・・二人。男だ。
「キャン。キャ、キャン。キャン!」 シノビデス。スグニ、オキテクダサイ。ミナサン!
「ンッ! どうした? コナツ。」
「キャン、キャン。」 チカヅイテキマス、シノビガ。
もう、シッカリしてください! 忍びですよ、忍び。木菟や鷲の目とは、大違い。殺しを厭わない。そんな感じの、強い忍び。それも二人です、二人!
「分かった、静かにしような。子が起きる。」
カズから撫でられ、尾を振る。
「緋か謡が、近づいているんだろう。」
そう言って、シゲが外へ出た。
「オレも行く。」
カズが水の入った瓢箪を持って、出てきた。シゲコとコナツも、ついて来る。
「・・・・・・もう少し、先の事だと思っていたよ。」
緋と謡から話を聞いて、シゲが呟く。
獣谷の隠れ里には、多くの人がいる。逃げて力尽き、倒れた者。獣に襲われ、倒れた者。傷を負い、動けなくなった者など。挙げればキリが無い。
助けたり救うのは、獣谷の隠れ里だけじゃない。良村も手伝う。どちらも早稲から出て、この地で暮らしている。ずっと昔から支え合い、助け合って生きてきた。
獣谷も良村も、全てを受け入れられない。だから頃合いを見て、他に移す。酷い扱いを受けた事を知ったうえで、受け入れてくれる。豊かで穏やかな里や、村へ。
だから、なのだろう。いろいろな話が、真っ先に入ってくる。ゲンからシゲ、シゲから良村の大人たち。やっと掴んだ幸せを守るため、子らを守るため、使えるモノは何でも使う。
「鎮の、西国かぁ。」
カズが頭を抱える。
カズは樵、他の山にも入る。そして出会う、狩り人に。いろいろ聞いて、知る。どんな事が起きているのか、どんな事が起きそうなのか。
早稲にいた時、聞いた。鎮の西国には、十の大国がある。どれも豊かで、海の向こうと繋がっている。知らない食べ物、知らない生き物、知らない草、知らない薬。何でも入ってくると。
そんな大国が、耶万に攻めて来る。もし、もしだ。その中の幾らかが、川を上れば。
ずっと、ずっと上れば辿り着く。山の奥深くに在る、豊かな地。多くの人が、幸せに暮らしている。そんなコト知ったら、必ず攻めて来る。兵を整え、いろいろ備えて!
「影、雲、月、桧、梟。五つの忍びも知ったハズ。どこかに集まり、話し合っているだろう。」
ニコリともせず、緋が言う。
「我らは見えません。しかし、雲には見える。言っていましたよ、闇が広がっていると。」
ニコリともせず、謡が言う。
雲が言う闇が何なのか、分からない。悪い物だ、というコトは分かる。人に見えない悪い物から、この地を守る。そのために要るのは、オロチ様の御力だ。




