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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
耶万編
392/1635

7-35 急がねば


「人が死ねば、闇が揺れる。」


低い声で、鼠神。


「・・・・・・はい。」



生きとし生ける者すべて、必ず死ぬ。年老いて死ぬ、やまいで死ぬ。争いで死ぬ、いくさで死ぬ。


解らない。なぜ傷つけ合う、なぜ奪い合う、なぜ憎み合う。なぜ、なぜ、なぜ。




あまつ神は、御隠れに為らない。隠とて同じ。しかし、国つ神は違う。望まれなくなれば、祀られなくなれば御隠れに。


山神や海神わだつみのかみなど、大いなる神は別。闇にまみけがれれば、天つ神より裁かれる。次の代に、御替り遊ばす。



闇堕ち為されば、妖怪へ。戻れず、代替りも無い。妖怪の墓場に放り込まれるか、清められる。


死ぬ・・・・・・のだ。神でも。




南の三柱みはしらは、何を御考えか。闇が溢れる前に、幾らでも。なのに捨て置かれた。だから闇が溢れ、おにときにまで。






「溢れたのは、大貝山の統べる地。耶万やま。」



蛇神のめぐし子に助けられ、フクが取り調べたのも耶万。人を壊す毒が海を越え、やまとへ。


風見かぜみの毒を混ぜ、人を人で無くす薬を作った。それも耶万。


耶万の毒に他の毒を混ぜ、整えたのは早稲わさ。上手く使えば薬になる。耶万は知らない、気にしない。



早稲神わさのかみは祝を殺され、社に籠られた。社の司により、整えられている。


しかし早稲の人は、欲が深い。祝が生まれる事は無いだろう。このまま静かに、御隠れになるのだろうか。



沼田神ぬまたのかみは村を滅ぼされ、社に籠られた。滅んだが、沼は残った。風見の国が沼で、毒を育てている。


いつか村が作られる、かもしれない。このままでは、御隠れに。




早稲と風見は結び、決めた。北の地には仕掛けない、攻めないと。しかし耶万は、諦めない。


北に、この地に豊かな村、国がある。知られた、知られてしまった。






「獣谷の隠れ里に、良村よいむら。良村は上木、かしと結び、備えて居る。加えて心消こけし、雲とも結び、月・ひの・梟が見届けた。」


スラスラと、鼠神。


「はい。獣谷の隠れ里、良村。どちらも賢く強い。あの早稲で生き残り、戦い慣れていると。」


そうおおせになり、雲井神くもいのかみ。悲し気に、微笑み為さる。


良山よいやまには、蛇神が御坐おわす。めぐし子を守るため、動かれる。」


鼠神の御目から、赤い光が放たれた。






動くのは、闇に強い狐。ハイ、その通り。隠の世で暮らす妖狐、嫌呂きろろ悪鬼おき。二匹のコンコンを耶万へ遣わせ、探らせます。


嫌呂は大蛇おろちに恩があるので、スタコラサッサと動くでしょう。悪鬼は、どうでしょうね。


弱みを一つ二つ、三つ四つ握られ、従わざるを得ない。なんてコトに? なっているとか、いないとか。



「隠からは動かぬ。しかし知らせが届かねば、妖怪を差し向ける。その前に、人のときで収めよ。」


「はい。急ぎ、使いを出します。」




ぐ、霧雲山と天霧山へ。


山守神やまもりのかみ矢弦神やつるのかみはかり、まとめ、大貝社おおかいのやしろへ使いを出す。


迷っていられない。急がねば。隠神が動かれる前に、何としても!


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