7-35 急がねば
「人が死ねば、闇が揺れる。」
低い声で、鼠神。
「・・・・・・はい。」
生きとし生ける者すべて、必ず死ぬ。年老いて死ぬ、病で死ぬ。争いで死ぬ、戦で死ぬ。
解らない。なぜ傷つけ合う、なぜ奪い合う、なぜ憎み合う。なぜ、なぜ、なぜ。
天つ神は、御隠れに為らない。隠とて同じ。しかし、国つ神は違う。望まれなくなれば、祀られなくなれば御隠れに。
山神や海神など、大いなる神は別。闇に塗れ穢れれば、天つ神より裁かれる。次の代に、御替り遊ばす。
闇堕ち為されば、妖怪へ。戻れず、代替りも無い。妖怪の墓場に放り込まれるか、清められる。
死ぬ・・・・・・のだ。神でも。
南の三柱は、何を御考えか。闇が溢れる前に、幾らでも。なのに捨て置かれた。だから闇が溢れ、隠の世にまで。
「溢れたのは、大貝山の統べる地。耶万。」
蛇神の愛し子に助けられ、フクが取り調べたのも耶万。人を壊す毒が海を越え、やまとへ。
風見の毒を混ぜ、人を人で無くす薬を作った。それも耶万。
耶万の毒に他の毒を混ぜ、整えたのは早稲。上手く使えば薬になる。耶万は知らない、気にしない。
早稲神は祝を殺され、社に籠られた。社の司により、整えられている。
しかし早稲の人は、欲が深い。祝が生まれる事は無いだろう。このまま静かに、御隠れになるのだろうか。
沼田神は村を滅ぼされ、社に籠られた。滅んだが、沼は残った。風見の国が沼で、毒を育てている。
いつか村が作られる、かもしれない。このままでは、御隠れに。
早稲と風見は結び、決めた。北の地には仕掛けない、攻めないと。しかし耶万は、諦めない。
北に、この地に豊かな村、国がある。知られた、知られてしまった。
「獣谷の隠れ里に、良村。良村は上木、樫と結び、備えて居る。加えて心消、雲とも結び、月・桧・梟が見届けた。」
スラスラと、鼠神。
「はい。獣谷の隠れ里、良村。どちらも賢く強い。あの早稲で生き残り、戦い慣れていると。」
そう仰せになり、雲井神。悲し気に、微笑み為さる。
「良山には、蛇神が御坐す。愛し子を守るため、動かれる。」
鼠神の御目から、赤い光が放たれた。
動くのは、闇に強い狐。ハイ、その通り。隠の世で暮らす妖狐、嫌呂と悪鬼。二匹のコンコンを耶万へ遣わせ、探らせます。
嫌呂は大蛇に恩があるので、スタコラサッサと動くでしょう。悪鬼は、どうでしょうね。
弱みを一つ二つ、三つ四つ握られ、従わざるを得ない。なんてコトに? なっているとか、いないとか。
「隠からは動かぬ。しかし知らせが届かねば、妖怪を差し向ける。その前に、人の世で収めよ。」
「はい。急ぎ、使いを出します。」
直ぐ、霧雲山と天霧山へ。
山守神、矢弦神と議り、纏め、大貝社へ使いを出す。
迷っていられない。急がねば。隠神が動かれる前に、何としても!




