表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
早稲編
39/1619

3-7 最期場

「この嵐、いつ過ぎるかな。」


「そうだなぁ、昼かな。」


「昼に出て、舟でここまで。水嵩が増してるだろうから、早いだろう。急ぐなら深川まで出て、底なしの湖へ。鳥の川に出て、ここまで。日が暮れる、ずっと前に来るんじゃないか。」


「釜戸山の釣り人は、舟の扱いがうまいからな。」


ひどく疲れていたシゲは、二人の、小さな話し声を聞きながら、引き込まれるように眠った。そして。




オレは狩り人だが、強いられることがある。断りたくても、断れない。妹が、セツが人質に取られているから。早稲の村に、母さんとセツが攫われた時、十二歳だった。父さんは死んでいた。オレを守って死んだ。


はじめての狩りの時、大熊に襲われそうになったのを、助けてくれた。六つだった。だから、母さんと弟や妹たちのことは、オレが守ると決めていたし、守っていた。村が、となりの村に襲われるまでは。


森に入っていた母とセツ、狩りに出ていたオレは生き残った。ほかの弟と妹たちは、死んだ。守れなかった。せめて生き残った二人は守ろうと、狩り人の村に助けを求めた。そこで静かに暮らしていたのに、ある日、母さんとセツを攫われた。セツの美しさに目をつけていた、となりの村の長に。


イノシシを狩って、村に戻ると、ひどく荒らされていた。男たちが狩りに出ている間に。すぐに探した。すぐに見つけた。そして殺した。となりの村の長は母さんを、倅はセツを押し倒していたから。迷わなかった。狩り人の村に戻ってすぐ、村長は言ってくれた。


「悪くない。守るため、戦ったんだ。」



荒らされたのは家だけで、田んぼはそのままだった。穫り入れ、倉に収めた夜。火の矢が飛んで、家が燃えた。外に出たオレは、焦った。早稲だったから。戦った。母さんを、セツを攫われないように。でも、負けた。オレは死にかけた。でも、死ななかった。傷を縫ってもらい、すぐに早稲の村に乗り込んだ。でも、遅かった。


セツは、まだ十歳だったのに・・・・・・。早稲の男に、気に入られてしまった。


「助けたくても助けられなかった。」


母さんはそう言って、泣き崩れた。オレが強ければ、もっと強ければ、早稲の男なんかに、触らせなかった。でも、オレは負けた。弱かった。



男は、村の長の子ジン。しかも、跡取り。そんなことはどうでもいい。


「妹を返せ。」


食ってかかったが、取り戻せなかった。また負けた。母さんもセツを取り戻そうとして、ジンに殺された。守れなかった。セツは・・・・・・ジンの子を産んだ。


「子に罪はない。」


そう言って、ジンに似た子を育てている。


「妹を殺されたくなければ。」


そう言われると、逆らえない。オレは強くなりたい。セツを守りたい。




オレは、苦しみながら死ぬ。楽には死ねない。血にまみれ、のたうち回って死ぬ。そんな夢を見る。それでも、たまに。ごく、たまに。死んだ両親と弟妹に会える。笑って、手を振っている。


オレは同じ所へは行けない。でも、いい。それだけのことをしたんだ。でも少しだけ、もう少しだけ。この夢の中にいたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ