7-27 無い、ナイ、ない
海と山に挟まれた、広く平らな地。戦や争いにより、多くの血が流される。吸い過ぎたのだろう。土が少し、赤みを帯びている。そうなれば増える、禍津日神が。
呼ばれるのだ、陸に。出されるのだ、海から。
我らは何も悪くない。求められるまま、禍の種を蒔く。望まれて、禍を撒き散らす。それが禍津日!
大稲神。作り物を守る、軍神。大倉神。食べ物を守る、軍神。実山神。木に生る実を守る、軍神。三柱とも、直日神。つまり敵だ。
天つ神よ。中つ国で、国つ神を。禍津日と直日を戦わせ、眺めて御出でか? 宴の催しか、我らの戦いは。
我ら禍津日神。根の国の穢より、生まれ出た。伊弉諾尊が、阿波岐原の禊で、我らを。
根の国へは、愛しい妻を。伊弉冉尊を迎えに。なのに・・・・・・。
思ってたのと違う! と逃げ帰り、女心をズタズタのボロボロに。多くの神を生み出しておいて、酷すぎやしませんか?
確かに。元を辿れば、根の国の穢ですよ。でもね、お父さん。兄弟を差別しちゃ、イケマセン。
コホン。失礼しました。戻ります。
「お気付きかと存じますが、闇が深まりました。」
シマシマ蛇、ニコッ。
「風見の地では無く、耶万の地にて。」
薄黒い蛇、ニコッ。
「同じ禍津日。何か、と。」
真っ赤っか蛇、ニコッ。
「申し付けられ、参りました。」
三匹、揃って平伏した。
「・・・・・・さぁ、何の事やら。」
知らぬ。何も聞いて居らぬわ。
耶万神は禍津日神。隠とは違い、闇に堕ちれば妖怪に。人に捨てられれば、御隠れ遊ばす。だからと、己を捨てるような神では。
愛されたい、認められたい。そんな思いが強すぎて望まれるまま、求められるまま。
とはいえ子と、女には優しい。どんなに望まれても、どんなに求められても助け、守りなさる。
闇が、深すぎる。
アレだけの数、耶万には。ならば、いや。止めるはずだ、使わしめが。マノなら何があっても、どんな事になっても、止める。
これまでも、そうだった。なのに、なぜ・・・・・・。
「止められ、なかった?」
風見神がボソッと、呟かれる。
「そのような・・・・・・。」
黒目、目をパチクリ。
マノは悪い蛇だ。表向きは善く見せかけて、心の内では、悪い考えを持っている。しかし、使わしめである事を誇りに。耶万神を慕い、仕えている。
あのマノが、望まれぬ事を? 無いナイない。となると、何が。操られた、誰に。飲まれた、闇に?
「動けるか?」
黒目の腹を御覧遊ばし、風見神。
「はい。」
シュルッと蜷局を巻き直す、黒目。
「では急ぎ、耶万へ。」
「ハイッ!」
キリッ。




