7-25 来ちゃった
マノは慄く。
息が止まっていた。息をするのを、忘れていた。苦しくて、なのに動けなくて。心の底から、恐ろしいと思った。生まれて初めて、人を。
始めはニコニコ、終わりは・・・・・・。
『トテモ』という言の葉が、氷のように冷たくて。『トテモ』という言の葉が、刃のように、鋭くて。逆らっては、いけないと。
人だが、祝の力を持っている。人だが、人なのに。
このままではイケナイ。今は一人だが、他にも。雲は忍び、強い忍び。霧雲山の忍びとは、まるで違う。何もかも、全て。
北の地で暮らす人は、南の地から逃げた人。生きるために、生き残るために。だから村でも国でも、守るために戦う。決して引かない。
早稲も風見も、引いた。組んだのに、諦めた。神成山や、畏れ山の統べる地なら、分かる。霧雲山が、山守神が?
いや違う。動いたのは、祝辺だ。霧雲山の頂を守るのは、山守神ではなく、祝だ。
人の祝は、一人。隠の祝は、ウジャウジャ居る。隠になっても力を失わず、守り続けている。しかし守ったのは・・・・・・。
隠が人に、手を貸した。妖怪が人に、手を貸した。それだけでは無い。神も、その御力を。
「ねぇ、いつまで待たせるワケ?」
ニコリともせず、雲が問う。
「言わなきゃバレない、とでも?」
・・・・・・聞こえるのか、心の声が。
「フッ、言ってるよ。口に出てる。」
「なっ!」
いる。囲まれた。何だ、この感じ。
「知ってるよ。耶万神が、禍津日神ってコト。風見神とは違って、直そうと為さったコトも。」
ここは中つ国。神、隠、妖怪、人も生きている。人の世のコトは、人で。隠の世のコトは、隠で。そう思ってる。
だから止めるために、殺してきた。人をね。
村や国なら、長。大国なら、王や大王。その倅も。でもさぁ、止まんナイんだよ。殺しても殺しても、湧いて出てくる。
何なんだろうね。南には血を流さなけりゃ、生きてイラレナイ。そんな病でも?
仕掛けて仕掛けて、負けて負けて。それでも仕掛けて、負ける。ワカンネェ。何なの、諦めろよ。ってコトでさ、来ちゃった。
「・・・・・・どうしろと。」
「社の司、巫、覡。ここまで言えば、分かるよね。」
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「奪え、と。」
「えぇ、そうなの?」
・・・・・・違うのか。
社の司、禰宜、祝。みぃんな、神に仕える。コレ当たり前。
耶万神の使わしめ、マノさま。神をお守りし、仕えている。耶万社には祝が居ない、禰宜も居ない。ここまでは良いよ。居ないモンは、どうにもナラナイ。
で、耶万の人は? 誰に仕えてる、何を崇めている。
「社の司、巫、覡を。・・・・・・止める。」
「よろしく、ネッ。」
雲がニコリと笑い、消えた。周りに忍んでいた者らも、スッと。暫くして、ヘナヘナと崩れる。
マノの目から、光が消えていた。




