7-21 神の終活
阿波岐原の禊にて、伊弉諾尊。根の国の穢を、払い落された。その穢から、災難や凶事などを引き起こす、禍津日神が御生まれに。
御知り為さった禍津日神、大いに荒ぶられた。
身につけて御出でになった物を全て、御捨てに。ケガラワシイと、御捨てに。海水に御体を沈められ、大きく御身を振られ、汚れを落とされた。
この時の禊によって、悪しき神として漂い出したのが、八十禍津日神、大禍津日神。
禊は続き、多くの神が生み出された。
禊を終えようとされた、伊弉諾尊。最後に両の目と、鼻を御洗いに。
天照大御神、月読尊、素戔嗚尊。貴い三柱の御生まれに伊弉諾尊、たいそう御喜びに。
なぜ、こうも違うのか。同じ神から生まれたのに!
根の国の穢?
愛しい妻を迎えに、根の国へ行った。その妻の姿が変わっていたから、逃げ帰った。で、醜いと。汚いと。そんなモノから生まれたから、悪しき神だと?
伊弉冉尊にも根の国にも、恨みは無い。寧ろ、気の毒に思う。
私は禍津日。神として、中つ国で生まれた。耶万で祀られ、求められるまま散蒔いた。禍を。
望まれている、親しまれている。幸せだと思っていた。しかし・・・・・・。
母の叫びが聞こえる。娘の叫びが聞こえる。助けを求め、泣き叫んでいる。なのに止めない、助けない。誰も、誰も。
使わしめを行かせた。なのに、止められなかった。
マノは悪くない。言いつけ通り、止めようとした。社の司が、従わなかった。
タクは見下し、笑いながら言い放った。『大王の仰せだ』と。『神の御心に、沿うたのだ』と。
何を言う!
禍津日神だ。禍を、禍の・・・・・・。それでも、違う! 望まぬ。女を苦しめ、傷つける事を。望まぬ。子を苦しめ、傷つける事を。望まぬ!
女に恨みは無い。女を傷つけ、苦しめる。そんな男が、嫌いだ!
戦を仕掛ける? 好きにしろ。戦を始める? 好きにしろ。戦に勝ちたい? 私は知らぬ。知るか!
神より、大王を崇める。悪い事は神に押しつけ、考えを通す。そんな人のために、尽くせ? 断る。
望まれず生まれた。悔しくて寂しくて、壊したいと思った。重く冷たい思いを打ちまけ、打ちまけ。禍だけを撒き散らす。残るのは、虚しさだけ。
求められるのが、嬉しかった。少しの間でも、忘れられた。悔しさも、寂しさも、虚しさも・・・・・・。
求められなくなれば、消える。それが神。
その時が来れば、行こう。隠の世か、根の国へ。そこで、静かに暮らそう。耶万を滅ぼし、マノを放って。
「許せマノ。直日神と手を携え、直す。」




