7-19 ゲスの極み
日が暮れ、闇に包まれた。
大人は飲んだくれ、騒いでいる。子は片付けを済ませ、目を閉じる。眠くなくても、目を閉じる。
横になって目を閉じれば、眠った事になる。誰かが静かに起き上がり、外へ出ても、誰も止めない。
眠っているから。起きていても、眠っているから。それが耶万社、継ぐ子の決まり。生き残るために考え出された、決まり。
「あの・・・・・・。聞こえますか?」
「・・・・・・こ、ろ・・・・・・し、て。」
手の足も動かない、動かせない。折れているから。骨を酷く、折られたから。
継ぐ子たちは、言われた通りにした。
汚れないように藁筵で包んで、社の離れに運び、転がした。縛らずに、そっと。
「折れて飛び出ている骨を、突き刺します。」
「・・・・・・わ、か・・・・・・た。」
痛く無いように、苦しく無いように、直ぐ死ねるように。
・・・・・・痛いよね。苦しいよね。助けられなくて、ごめんなさい。
ヌッと出ている骨を抓み、引っ張る。それからグッと、深く突き刺した。掌で押さえて、奥まで。
「・・・・・・とぅ。」
タオの顔に耳を近づけ、確かめる。
息が、止まっていた。暗くて、はっきり見えない。けれど、穏やかな顔に。そんな気がした。
あの男の事だ、そう長く生きられないと分っていて、ここに運ばせた。
朝が来たら、継ぐ子の誰かに言うだろう。『見て来い』と。見に行って、戻って、言う。『運んだ時は生きていましたが、死んでいました』と。
壊した娘は、生きていた。朝になったら、死んでいた。運び込んだ時には、生きていた。だから継ぐ子は言う。生きていたと。死んでは、いなかったから。
手を洗い、月に掌を見せ、願う。
死んだ母子の魂が、迷う事なく清められ、隠になれますように。闇に飲まれず、闇に染まらず、戻りたい地へ、戻れますように。
そっと継ぐ子の家に戻り、横になる。目を閉じ、朝を待つ。誰も、何も言わない。誰も、何も聞かない。
忍びは見ていた。全て、見ていた。
耶万に潜る忍びは、多い。北から西から、東から南から。結んで無くても、忍びは助け合う。見て見ぬふりは、しない。
一人で潜っていても、結んだ忍びが支える。
何か有れば、他の忍びを頼る。助け、助けられ、助け合う。それが忍び。どこでも同じ。
「あの継ぐ子。」
「攫うか。」
「どこへ。」
「連れ帰るのか。」
「それは・・・・・・。」
四人の忍びが話し合う。歪んでいるが、まだ間に合う。あの継ぐ子なら、きっと。
「誰か来る。」
サッと姿を消した。
「楽しもうぜ。」
「ギャハハハ。」
「オイ、起きろ。夜は長いぜぇ。」
「・・・・・・逆らうな、従え!」
「ひっでぇぇ。」
「し、死んでるぅぅぅぅ。」




