7-17 耶万の蛮行
「止めて! 娘に触らないでぇぇぇ。」
私はどうなっても。でも娘だけは、何があっても守らなければ。
「うるさい、黙れ。」
ゴッと殴られ、カルは気を失った。
「おかあさんっ、嫌ぁぁ!」
母の元へ駆け寄るも、グイッと腕を捻り上げられ、バタバタ暴れる。
「連れて行け。」
耶万社。社の司、タク。
惨たらしく、思いやりが無い。人の道にも背いている。神に仕える者として、相応しくない。そんな男だ。
これから行われる、言の葉で表すのも憚られる事。誰にも止められない。大王が決めた事、社の司が任された事。
もし背き、妨げれば・・・・・・。
すまない。許してくれ。守りたいんだ、妻を。守りたいんだ、娘を。守りたいんだ、思い人を。
「いや、止めて。いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
「止めて、虐めないで。お母さぁん! いやぁぁぁぁ!!」
耶万神、禍津日神である。その神ですら、耳を塞がれた。
使わしめマノ。表向きは善く見せかけて、心の内では悪い考えを持っている、黒蛇の隠。そんなマノですら、目を伏せている。
「マノ。耶万の男は女を、どうしたいのだ。」
「分かりません。人の考えなど、隠には。」
耶万社の皆、見えない聞こえない。だから話せない。神も隠も、全く見えない。見えるのは、社の司だけ。
ずっと昔は、社の皆に見えていた。いつからか、見えなくなった。
「このまま捨て置けば、何れ。」
「言うな、マノ。」
霧雲山なら、どうにでも。
山守神は引き籠り、社から御出でに為らない。祝辺の守が動けば、隠の守も。どちらも奪えない。
しかし野比、野呂、鎮野、大泉など、他にいる祝は違う。山守、祝辺に見切りをつけ、力を合わせる。
乱雲山は、直ぐ動く。
足りなければ迷う事なく、天霧山を頼る。それでも足りなければ、釜戸山が動く。そうなれば・・・・・・終わる。全て。
乱雲山には、雲井神の愛し子。天霧山には、矢弦神の愛し子。釜戸山には、釜戸神の愛し子。皆、強い力を持っている。
守るためなら、厭わない。
多くの涙が流されても。多くの血が流れても。多くの命を、奪う事になっても。生きとし生けるもの、全てを守るために戦う。
そんな人だから、祝になった。そんな祝だから、愛し子になれた。そんな祝が多いから、守られている。霧雲山の統べる地が豊かなのは、きっと。
何もかも全て、耶万とは違う。心構え、器が違う。
劣っていたとしても、己が命を懸け、成し遂げる。そんな人なら、祝になれる。そんな人がいれば・・・・・・。
「生まれるだろうか。」
耶万神が仰った。
「祝ですか? この地に、耶万社に。」
マノが冷たい目をして、伺う。
耶万では、アッサリ殺される。祝でも禰宜でも。
社の司は生き残るために、捨てた。それから、生まれなくなった。祝の力を持つ子が、一人も。




