7-16 お止めください
「で、どうだ。」
良那の大王が問う。
「ヒドイ、としか。」
言い難そうに、臣が答える。
そう、酷い。酷過ぎる。
女を何だと思っている! 男が、そんなに偉いのか? 女から生まれたクセに、産んでもらったクセに。
早稲、風見、耶万。他にも戦が好きな村や、国はある。中でも耶万。人とは思えない、狂っている。
海の向こうから、仕入れた薬。それに風見の毒を混ぜ、人を壊す薬を作った。早稲に試させ、蔦山との戦に使い、確かめた。どれだけ効くか、どれだけ続くかを。
渡された薬を、そのまま使ったのでは無い。耶万と風見が作った毒に、早稲の毒を混ぜた。それを飲ませて、確かめたのだ。
耶万が使う薬は、早稲のとは違う。風見も知らない。気付いて無い。
早稲の長は若いが、キレる。加えて、狡賢い。アレを敵に回すと、トンデモナイ事になる。
「早稲の毒、手に入るか。」
「いいえ。・・・・・・大王、まさか?」
「違う。しかし有れば、駆け引きに使える。」
違いなど、全く分からない。良那だけで無く、どこでも。分かるのは毒である、という事だけ。
それでも、いつか。どこかで分かるかも。そう思う、願ってしまう。
このまま捨て置けば何れ、血で染まる。
早稲は加わるフリをして、どうなるか見るだろう。風見は早稲に付くか、耶万に付く。早稲に付けば、このまま。耶万に付けば・・・・・・。
「北の地は。」
「足腰の強い臣を、狩り人と行かせました。しかし、戻りません。辿り着けなかったのでは、と。」
北の地と争う気など、全くナイ。
霧雲山には、強い祝がいる。それも多く。死んで隠になっても、祝の力を失わず、守り続けている。
嘘では無いだろう。でなければ、広い地を守り切れない。それに他にも。乱雲山、天霧山、釜戸山。その何れにも、強い祝が。
分かるのは、ここまで。
悪しき事に使わない、考えもしない。なので北の地、霧雲山の統べる地について、話せるだけで良い。そう御願い申し上げ、釣り人から。それで、やっと分かった。
「社の司を遣ろう。」
祝の力は無いが、妖怪は見える。話す事も出来る。隠はサッパリ。
「それはっ、お止めください。」
臣が平伏す。
「では、禰宜を。」
祝の力は無いが、使わしめの姿は見える。話す事も出来る。隠はサッパリ。
「それも、お止めください。」
控えていた他の臣が、縋るように。
「では、祝を。」
「とんでもない!!」
一人残らず、叫ぶ。
祝を外へ出せば必ず、奪われる。そうなれば、良那でも滅ぶ。
良那社の祝には、作物を癒す力がある。枯れそうになっても、祝が触れれば直ぐ、瑞瑞しさを取り戻す。
良那では、男が祝の力を継ぐ。死ねば兄弟、甥の誰か一人に、力が移る。
つまり攫われれば、良那から力が奪われる。祝が死なない限り、戻らないのだ。




