7-12 ないわぁ
朝の山歩きから戻り、マルコに水を飲ませる。
開けた地が無かったので、木の枝ポーンは御預け。その代わり、たくさん歩いた。
乱雲山には、妖怪が多い。大蛇から聞いていたけど、隠より妖怪が多くて、ビックリした。
熊が慌てて逃げてったけど、どうしてかなぁ。
「おかえり、マル。」
ただいま、大蛇。
「キャン。」 タダイマ。
ゴクゴク水を飲み、一息ついたマルコ。マルに撫でられ、ウットリ。
「朝餉にしよう。おいで。」
「はいっ。」
社の司、ツルに呼ばれ、雲井社の離れへ。
モリモリ食べて、ごちそうさま。みんなで片付け、行ってきます!
ツウは試み村、コウは矢光村へ。仲良く手を繋いで、出掛けた。
コウさん。大人になったら、ツウさんと契るんだって。とっても幸せそう。私もいつか、好いた人と。
・・・・・・キャッ、どうしましょう。
「マルには、まだ早い。」
大蛇?
「いや、その。何だ。」
なあに?
「・・・・・・山歩き、楽しかったか?」
楽しかった。熊がね、逃げてった。どうしてかなぁ。
マルは知らない、フクが食いしん坊だと。熊の肉が大好きで、力を多く使うと、熊の肉が食べたくなると。
乱雲山の熊たち。熊さん便も、熊くま便も、引っ越しラクくま便も押さえられず、困っている。世に言う、引っ越し難民である。
そりゃ、逃げたくもなります。祝の力を持つ子が、仔犬を連れてニコニコ、楽しそうに山歩き。その隣には、狩り人コウ。
一人で熊をサクッと狩れる、オソロシイ子がニコニコ、山歩き? ないわぁ。にっげろぉ! と。
「マルと目が合って、照れたのだろう。」
そうなの?
「そうだ。なぁ?」
イキナリ振られた三妖怪、タジタジ。
捕らえられ、良山から乱雲山へ運ばれた、耶万の罪人。雲井社では無く、麓に建てられた倉に、閉じ込められている。
人でも何でも、生き物から魂を剥がせば、死んでしまう。
耶万の毒に侵されていなければ、そのまま根の国へ。隠になり、裁きを受け、許されれば、生まれた地へ戻る。
守りたい人を、見守り続ける。
耶万の毒は、恐ろしい。死んでも残り、苦しませる。言の葉が通じない。話が出来ない。呻いて叫んで、暴れて喚いて。どうしようも・・・・・・。
人に戻せるなら、戻したい。人に戻せば、いろいろ聞ける。聞き出せる。生きて返せないが、骨は戻せる。守りたい人の、元へ。
「離れていても、心で話せます。けれど、私を通して力が使えるかどうか、分かりません。」
コクンと頷く。
「なので今から、試してみましょう。」
フクがニッコリ笑って、マルの手を包んだ。
「おねあいしますっ。」
ニコッ。少し吃ったが、気にしない。




