7-7 足りないモノ
一人は、橡の大木の辺りで。一人は、渦の滝壺で。一人は、滝を登ろうとして力尽き。一人は、滝の上で力尽き。一人は、重ね崖の近くで。一人は、崖の滝に浮かんでいた。仰向けに浮いていたので、助かった。
・・・・・・生きていると、言えるのだろうか。死ななかった、死ねなかった。
「清めと守り、二つの力があれば!」
フクが叫ぶ。
「・・・・・・清め?」
「・・・・・・守り?」
「・・・・・・二つ?」
三妖怪、見合って頷く。
「フク、少し待て。頼んでみる。」
雲井神の使わしめ、ゴロゴロ。ニャンと心当たりが!
気の毒だと思う。
雲や、良村の人から聞いた。耶万から送られてくる人は、他から攫われたり、守りたい人を守るために、毒を呷る。
死ぬと解って、戦に出る。戻れないと解って、戦に出る。使い捨てられると解って、戦に出る。
傷ついて倒れる。それでも休めない。耶万の夢を、飲みたくないのに呷る。傷ついているのに、戦う。倒れたのに、戦う。それでも休めない。で、また呷る。
「とっても、とっても。」
吐き出したいでしょう、きっと。飲みたくないでしょう、きっと。それでも吐かずに、それでも飲み込んで。
壊れたんじゃない、壊された。止めたんじゃない、止めさせられた。人なのに、人じゃ無くなった。戻りたいのに、戻れなくなった。
「なぜ助け合って、生きられないの。」
雲から聞いたわ。南にも、豊かな村は多いって。
あの早稲も、豊かなんですって。水があって、日当たりも良い。山が近くて、風が通る。
滅ぼされた沼田も、豊かだったそうね。早稲と違うのは、戦い慣れていなかった事。
・・・・・・いくら考えても、解らない。なぜ? なぜなの。
困ったら頼る。ゆとりがあれば、手を差し伸べる。助け、助けられ、助け合う。そうして生きてゆく。それが、人でしょう?
「私、甘い?」
天霧山へ行き、雲から話を聞きたい。良山へ行き、良村の人から話を聞きたい。釜戸山へ行き、エイさまと話したい。霧雲山へ行き、タマさまと話したい。
もっと力が有れば、叶うのに。
私に足りないモノ、分かっているのよ。分かっているのに、どうしようも無い。いいえ、違う。隠になる心構え。継ぐ子、コウ、ツウ。私が隠になっても、きっと。
「フク!」
「ならん!」
キラとコンが叫ぶ。
フクは愛し子。雲井神の、愛し子なのだ。誰でも良いワケじゃ無い。愛し子が祝になった。その愛し子を、隠に?
そこまで思い詰めて・・・・・・。フク、許せ。気づかなんだ。
「愛し子にしか、出来ぬ事が有る。」
子狐に化けた、コン。
「辛ければ、ゆっくり休め。」
大きくなった、キラ。
モフモフに挟まれて、フク。ニッコニコ。




