6-187 またね
「さぁ着いた。タエ、この先が茅野だ。」
「・・・・・・はぃ。」
ノリを見つめて、小さく頷いた。
「タエ。また、あえうよ。」
マル、ニッコリ。
「キャン。」 アエルヨ。
「キャキャン。」 アエマスヨ。
マルコとコナツも、明るく伝える。
「会える?」
心細そうな声で、タエが尋ねた。
「あえう! ねっ、ノリさんっ。」
「あぁ、会える。近いからな。」
ニッコリ笑う、マルとノリ。マルコとコナツは、尾をフリフリ。
「タエ、行こう。茅野社へ。」
ヤノが人の姿に化け、二コリ。
「さあ、おいで。」
ノリに舟から降ろしてもらう。
「ありが、とう、ござい、ます。」
「どういたしまして。」
ノリに頭を撫でられ、チョッピリ照れた。
「茅野の長や狩頭は、良い人だ。きっと守ってくれる。」
「はい。」
「良村のシンがな、商いに行く。会いたくなったら、そう言ってくれ。オレがマルを連れて、茅野社へ行くよ。」
「キャン。」 ボクモ。
「そうだな。マルコも、な。」
会える。マルにもマルコにも。ミヨやタマとも会える、きっと。そう思ったら、心が軽くなった。
タエは一人、残された。縁の人は皆、死んだ。でも、一人じゃ無い。
『またね』と言ってくれる。『会える』と言ってくれる。笑って手を振ってくれる。そんな友が、いっぱい。
嫌な事、悲しい事、辛い事、忘れてしまいたい事。いっぱい、いっぱい、あった。これからも、きっと。
分かっている、見えるから。知っている、見えるから。
祝の力が怖かった。捨ててしまいたいと、繰り返し思った。でも今は、怖くない。
この力は、母さんから引き継いだ。母さんは婆さまから、婆さまは大婆さまから。母から娘へ、娘の一人にだけ。
他の人は知らないけど、私が継いだ先読の力は、そう。いつか私が産む娘の一人に、引き継がれる。その時、力を失うけど。
母さん父さん、姉さん兄さん、婆さま爺さま。みんな、みんな。私、幸せになる。だから、見守っていてね。
「マル、またね。」
「またねっ、タエ。」
良村の舟が漕ぎ出した。マルは大きく手を振って、笑っている。嬉しくて、タエは舟が見えなくなるまで、手を振り続けた。
「そろそろ、行こう。」
「はい。」
ヤノと並んで、茅野の村へ。
タエは知った、末の時は変わると。行いを変えれば、変えられると。恐れず、伝えよう。茅野神、使わしめヤノさま。社の司、禰宜、祝。みんな私を守ってくれる。
出来る事をしよう。茅野の村を、みんなの幸せを守るために。




