6-185 死の舞曲、再び
マルに憑いたのは、隠の蛇神。手を出せば漏れなく、隠が敵に回る。そうなれば・・・・・・終わりだ。
蛇神は恐ろしく強く、九尾の黒狐とも仲が良い。どちらも長い時を生き、衰えを感じない。もう千どころか、万も生き続けるだろう。
「山守神は統べる地を持つ、大神。」
「霧雲山の統べる地において、その力。弱まるばかり。」
牙の滝の主さま、赤目の白神、大いなる白蛇など。数多の名を持つ隠神、大蛇。気紛れに、人の世でマッタリ。気付けば国つ神として、祀られていた。
愛し子を守るため使い蛇頭、ウタに牙滝社を任せた。なのに、力を保ったまま。寧ろ日に日に、輝きを増している。
マル。他の愛し子とは、明らかに違う。
九尾の黒狐だけでは無い。牙滝神、使わしめチュウ。鴫山神、使わしめマイ。揃い揃って、見守ると。隠、妖怪、社の司。忍びまで、良村に付いた。
「ならば、マルを祝辺の守として。」
「良く、良く、お考えください。」
蛇神は、水神。霧雲山の統べる地は、水が豊か。地の底に流れる水の筋を辿れば、どこへでも。加えて、隠神。隠の世を、好きに通れる。その気になれば、妖怪の墓場へも。
敵に回せば必ず、恐ろしい事になる。
神を降りたとはいえ、長い時を生きた隠。神の力を使いこなし、清め、守り、戦える。祝の力を持つ愛し子が望めば、再び神へ。
良村には、獣谷の隠れ里が。忍びたちが。
馬守、川田、岩割、蔦山。茅野、草谷、大平、陽守。この度の裁きが切っ掛けとなり、宝玉社、飯田社、三鶴社。使わしめから、国つ神へ。社の司から、禰宜や祝へ。
「で、あれば。何が何でも、こちらへ。」
「霧雲山を、崩す積りだと?」
水の多い山から水を抜けば、どうなる。水の多い山に水を集めれば、どうなる。霧雲山とて、土の塊。崩そうと思えば、崩せる。
力を失い続ける山と、力を蓄え続ける山。どちらが強い。
考えるまでも無い。霧雲山が崩れれば、天霧山が取って代わる。乱雲山、釜戸山が支え、助ける。
「しかし!」
隠の世に叩き落とされた守には、己と同じ思いをさせる力が。使いたく無かったが、思い知らせるには、他に・・・・・・。
フフ、フフフッ。逃がさない。許さない。思い知れ。フフ、フフフッ。オギャア、オギャア。止めて。許して。助けて。
オギャア、オギャア。ごめんなさい、ゴメンナサイ。お母さん。帰りたい。死にたくないよ。痛いよぉ。ごめんなさい、ゴメンナサイ。もう、嫌だ。嫌なんだ。見たくない、聞きたくない。
きっと何か、罰を受けて死ぬんだ。そうでなきゃ、おかしい。こんなに苦しいのに。こんなに辛いのに。フフ、フフフッ。逃がさない。許さない。思い知れ。フフ、フフフッ。
フフ、フフフッ。フフフッ。フフ、フフフッ。オギャア、オギャア。ごめんなさい、ゴメンナサイ。嫌だ。嫌なんだ。フフ、フフフッ。
オギャア、オギャア。死にたくないよ。痛いよぉ。お母さぁん・・・・・・。
アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
「スイマセン。ごめんなさい。もう、しません。許してください。助けてください。お願いします!」
目をひん剥き、耳を押さえながら叫ぶ。そんな守たちを見て、思う。私も『こう』だったのか、と。




