6-184 人望も隠望も、無いんだね
隠の守が一人、足りない。釜戸の裁きを覗き見るため、先乗りした隠の守が戻らない。
考えられるとすれば、釜戸山から他の地へ。だとすれば、なぜ言伝を残さなかったのだろう。
・・・・・・残せなかった。
霧雲山。祝辺から守の力を使って、見渡す。守られている地は、隠されている地は、どこだ?
そこに居る。霧雲山を守れる、祝の力を持つ子が。牙の滝から、飛び降りても死ななかった子が。
探せ、探せ、探せ!
幾らか残し、平良に乗って探しに。その中の一人、いや一羽か? 空から川へ。
勢いよく叩き落としたのは、三鶴神の使わしめハツ。曰く、『だって、目障りだったんだモン。』
中井・木下・三鶴。大田・稲田・草谷。6つの村からなる、三鶴の国。
三鶴の村の真ん中にある、三鶴社。湖の畔にある。三鶴神も使わしめも、争いを嫌う。つまり、戦を好むモノがキライ。人でも隠でも、何でも。
北山社から助け出された人は皆、望み通りに。生きたいと願う者は、縁の地で暮らす。死にたいと願う者は、心安らかに旅立った。
罪を犯した者は裁かれ、罰を受ける。なのに!
『探せ』だぁ? 何を探しているか、聞くまでも無い。祝の力を持つ子、蛇神の愛し子だろう。させるか! と相成り、アップアップしています。
多くの舟が通り過ぎるのに、隠も妖怪も助けません。隠望、無いんですね。サッサと平良から離れれば、烏は助かるのに。
平良の烏はカァカァ鳴く、あの烏です。人にも見えます。なのに、なぜ誰も助けないのでしょう。
助けられないのです、見えませんから。
ハツに叩き落とされる時、身を守るため、隠の力で包みました。つまり、隠の力が勝っています。見える人にしか、見えません。
ノリに見えたのは、タマタマ。茅野神の使わしめ、ヤノの力で舟ごと、包まれています。
大蛇とコッコに頼まれて。良村の舟にはタエも乗りますから、快く引き受けてくれました。
ノリにはチュウやヤノの姿も、バッチリ見えています。狐は犬とは違いますが、子狐なので『まァ、いっか』と。
鼠は摘まみ出そうとしましたが、ノリコが庇ったので乗せました。ノリですから。犬好きですから。
見える人たちも、知らんぷり。
社の司なら、知っています。隠や妖怪の力で、山裾の地が守られた事を。化け王の才で、助けられた事を。祝辺の守が守ろうと思えば、守れた事を。
霧雲山の統べる地は今、曲がり角。これから守がドウ動くかで、全てが決まります。
それはそうと、隠の守サン。早く気付かないと。使い烏、守らないと。そろそろ、力尽きちゃうよ。
「戻りましたぁ。」
隠の世に叩き落とされ、コテンコテンに打ち負かされ、閉じ込められ、己の行いを振り返り、追い詰められ、笑って解き放たれました。グッタリ。
「聞こう。」
人の守よ。ボロッボロだよ、隠の守。少しは労わりましょう。
「牙の滝の幼子、蛇神の愛し子です。手を引きましょう。」
ヨレヨレのフラフラなのに、キリリと言い切った。
「ならぬ。」
生きて戻った隠の守、マホ。クワッ! 鬼と化し、他の守に懇懇と諭す。




