3-3 惨殺の代償
シゲが眉間に皺を寄せ、息をスウっと吸って、続けた。
「あのな、言いにくいんだけど。」
まだあるのか。きっと、うんざりするくらい悪いことだろう。
「茅野の狩り人の子がいなくなって、騒ぎになった。覚えてるか。」
「神隠しか何かかって、あれか。」
カズが思い出したように言った。
「ああ、それだ。」
「思い出した!お前たちが関わってるんじゃないかって、早稲の村の長が言ってきたヤツだ。」
「ああ、それだ。」
嫌な感じがしてきた。もしかして。
「その子が・・・・・・見つかった。鳥の谷の、噴き出水のそばで。」
シゲが腰につけた袋から、何かを出し、見せた。
「あっ。」
間違いない。オレが作った石器だ。
「ノリ、これって。」
「ああ、オレがタツに頼まれて作った。」
「やっぱり、そうか。」
「その狩野の子、生きてたか。それとも。」
「死んでた。ひどい有様でな・・・・・・。」
「いや、言いたくなければ、いい。」
カズが止めた。それでもシゲは続ける。
「食われてたよ。・・・・・・、・・・・・・。」
シゲが震えている。カズは、唇を噛んでいた。
「口には布が。後ろで括ってあった。」
茅野は川のそばにある、豊かな村だ。狩り人もいる。確か、いなくなった子は六つ。親は、大きく育った我が子の行く末を、とても楽しみにしていたはず。それなのに、そんな殺され方をして、黙っているわけがない。
「なあ、ノリ。オレは思うんだ。タツには死んでもらってほうがいいんじゃないかって。」
ガタッ。
外で音がした。タツが慌てて、逃げたんだろう。見合わせ、何も言わず立ち上がると、タツの小屋へ。三人と一人、呆気なかった。
「離せ!離してくれ。」
「タツ、茅野の狩り人の子、殺したのか。」
「ああ、攫って、従わせようとした。でも、従わなかった。だから。」
「なぜ、そんなことをする?誰も望んでないだろう。」
「オレは、オレは、強い子を連れて戻って、役に立ちたかったんだ。これまで何人も連れて来ただろう?役に立っただろう。」
「何を言っているんだ?タツ。オマエが連れて来た子はな、オレたちが返したよ。早稲の村の長に命じられて、一人残らず。」
「なにぃ。」
「気づけよ、タツ。周りをよく見ろ。」
「タツ、よく聞け。子を返すたびにな、女の人が苦しんで、苦しんで手に入れる米を、米が、減らされた。早稲の男どもはな、一掴みの米しか渡さなくなったんだ。それっぽっちだ。何度も何度も、何度も何度も、死にたくなりながら、心を殺して。それで、それが、そんなことをして手にする米が、一掴み。わかるか。」
「タツ、オレたちのことを思うなら、死んでくれ。」
「嫌だ!嫌だぁ。」
「聞け、タツ。オレたちはもう、シシ山にも、鳥の谷にも、熊実にも行けない。良い狩り場に行けないんだ。行けなくなったんだ、オマエのせいで。」




