6-180 違うって
北山社が、隠れて行い続けた悪しき事。その裁きが終わった。
罪人は獄に入れられ、罰を受ける。
攫われた者は皆、縁ある者や、生まれ育った地に引き取られ、釜戸山を出る。
先に引き取られ、釜戸社に呼ばれた者らは、釣り人の村に集められた。すっかり打ち解け、和やかに言の葉を交わしている。
「シゲさん。ミヨを頼みます。」
頭を下げるトクの衣を握ったまま、動かない。
ミヨは怖かった。
『縁の者かもしれない』と言って近づく者が、ゾロゾロ来た。皆、祝の力を欲していた。
言うまでもなく、何の繋がりも無い。心の声が聞こえると知っていて、笑いながら嘘を吐く。そんなイキモノしか、来なかった。
母さんは死んだ。地が震えて、戦になって、多くの人が死んだ。
きっと縁ある人たちも、死んでしまったんだろう。私は一人、残された。私には誰も。
このまま独り、どこかで死ぬまで生きるんだ。マルも、姿を消した。・・・・・・妹みたいに、思ってたのに。
このまま釜戸山で暮らすか、日吉山で暮らすか。ボンヤリと考えていたら、男の人が両の手を広げて、ガバッと。『サヤ』って叫んで、私を抱きしめた。
私はミヨ、サヤは母さんの名。逃げようとしても、放してくれない。心の声を聞いた。『サヤ、サヤ。兄さんが育てるよ』って。
私にも縁の人が。一人じゃ無い、独りじゃ無い。嬉しくて涙が出た。『サヤの娘だね』って言われて、頷いた。
私、母さんが子の時に、とっても似てるんだって。
母さんもこうして、ギュッと抱きしめてくれたなぁ。温かくて、幸せで・・・・・・。
ずっと、ずっと側に。そう思ってた。なのに、違う舟に乗せられる。玉置の舟に乗れないだけ。
『伯父さん、離れたくないよ。同じ舟に乗りたい。』言いたいのに言えない。言の葉が出ない。出るけど、話が出来ない。
心の声が聞こえた。
『この人は良村の長、シゲさん。良い人だよ。深川にある玉置の舟寄せまで、送ってくれるんだ。』
伯父さんの声だ。
ビックリして顔を上げたら、シゲさんと目が合った。屈んで、私に合わせてくれていた。
「案ずる事は無い。ノリコも乗る。」
ノリコじゃなくて、タマだよ。祝の姪っ子なんだって。
「ワン。」 ノリコデス。
よろしくネ。
「タマ、おいで。」
・・・・・・飛び込む? 私、水では死なない。
タマには、水を操る力がある。
闇に飲まれて、何も感じなくなった。喜びも怒りも、哀しみも楽しみも全て。聞こえるけど、言の葉が出ない。涙も出ない。
心の声が届けば良いのに、届かない。だから私が聞いて、伝える。
ケロさま。そんなに悲しそうな顔、為さらないで。タマの声は私が、伯父さんも居ます。
タマは犬が好きなんです。良村の犬を撫でながら、『カワイイ』って。顔は動きませんが、心の声は弾んでいました。ほんの少し、ですが。
「送ってくれるって。」
・・・・・・。縛られて、沈められるの?
「違う。」
・・・・・・。殺されて、沈められる?
「違う。」
・・・・・・。切り刻まれる?
「違う。」
ミヨはタマの手を引き、良村の舟に乗り込んだ。




