表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
346/1635

6-180 違うって


北山社きたやまのやしろが、隠れて行い続けたしき事。その裁きが終わった。


罪人はひとやに入れられ、罰を受ける。


攫われた者は皆、ゆかりある者や、生まれ育った地に引き取られ、釜戸山を出る。



先に引き取られ、釜戸社かまどのやしろに呼ばれた者らは、釣り人の村に集められた。すっかり打ち解け、なごやかに言の葉を交わしている。




「シゲさん。ミヨを頼みます。」


頭を下げるトクの衣を握ったまま、動かない。



ミヨは怖かった。


『縁の者かもしれない』と言って近づく者が、ゾロゾロ来た。皆、祝の力を欲していた。


言うまでもなく、何の繋がりも無い。心の声が聞こえると知っていて、笑いながら嘘を吐く。そんなイキモノしか、来なかった。




母さんは死んだ。地が震えて、いくさになって、多くの人が死んだ。


きっと縁ある人たちも、死んでしまったんだろう。私は一人、残された。私には誰も。


このまま独り、どこかで死ぬまで生きるんだ。マルも、姿を消した。・・・・・・妹みたいに、思ってたのに。




このまま釜戸山で暮らすか、日吉山で暮らすか。ボンヤリと考えていたら、男の人が両の手を広げて、ガバッと。『サヤ』って叫んで、私を抱きしめた。


私はミヨ、サヤは母さんの名。逃げようとしても、放してくれない。心の声を聞いた。『サヤ、サヤ。兄さんが育てるよ』って。




私にも縁の人が。一人じゃ無い、独りじゃ無い。嬉しくて涙が出た。『サヤの娘だね』って言われて、頷いた。


私、母さんが子の時に、とっても似てるんだって。


母さんもこうして、ギュッと抱きしめてくれたなぁ。あったかくて、幸せで・・・・・・。




ずっと、ずっと側に。そう思ってた。なのに、違う舟に乗せられる。玉置の舟に乗れないだけ。


『伯父さん、離れたくないよ。同じ舟に乗りたい。』言いたいのに言えない。言の葉が出ない。出るけど、話が出来ない。



心の声が聞こえた。


『この人は良村よいむらおさ、シゲさん。良い人だよ。深川にある玉置の舟寄せまで、送ってくれるんだ。』


伯父さんの声だ。



ビックリして顔を上げたら、シゲさんと目が合った。屈んで、私に合わせてくれていた。






「案ずる事は無い。ノリコも乗る。」


ノリコじゃなくて、タマだよ。祝の姪っ子なんだって。


「ワン。」 ノリコデス。


よろしくネ。


「タマ、おいで。」


・・・・・・飛び込む? 私、水では死なない。




タマには、水を操る力がある。


闇に飲まれて、何も感じなくなった。喜びも怒りも、哀しみも楽しみも全て。聞こえるけど、言の葉が出ない。涙も出ない。


心の声が届けば良いのに、届かない。だから私が聞いて、伝える。



ケロさま。そんなに悲しそうな顔、為さらないで。タマの声は私が、伯父さんも居ます。


タマは犬が好きなんです。良村の犬を撫でながら、『カワイイ』って。顔は動きませんが、心の声は弾んでいました。ほんの少し、ですが。



「送ってくれるって。」


・・・・・・。縛られて、沈められるの?


「違う。」


・・・・・・。殺されて、沈められる?


「違う。」


・・・・・・。切り刻まれる?


「違う。」



ミヨはタマの手を引き、良村の舟に乗り込んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ