6-179 傷口が広がる前に
山走りから戻り、出で湯に浸かる。
釜戸山には、犬が浸かれる湯がある。マルコはマルに、ノリコはノリに、コナツはシゲに洗われ、カポーン。いい湯だな。
ブルルッとしてから、乾いた布でポンポン、フキフキ。湯上りに、水をゴクゴク。染み渡るぅ。
飼い主たちが出で湯に浸かっている間、ノンビリ。それから、美味しいゴハンをパクパク、モグモグ。ふぅ、幸せ。
朝餉を食べて、お片付け。整えてから、お別れの言の葉を交わす。
ノリが乗って来た舟は、大川の舟寄せまで運んである。
裁きが始まる前。受け入れ先が決まっている者は、大川から釜戸山に入った。
釣り人の村に泊まり、離れへ通った。後から決まった者は、守り人の村にいる。狩り人の村を通って、源の泉から出る。
スイマセン。ごめんなさい。もう、しません。許してください。助けてください。お願いします。ここから出して。アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! 許して。助けて。頼むから。もう。バタッ。
ベチベチッ。ハッ!
フフ、フフフッ。フフフッ。フフ、フフフッ。オギャア、オギャア。ごめんなさい、ゴメンナサイ。嫌だ。嫌なんだ。
スイマセン。ごめんなさい。もう、しません。許してください。助けてください。お願いします。ここから出して。お願いします。お願いします。お願いします。
フフ、フフフッ。オギャア、オギャア。死にたくないよ。痛いよぉ。お母さぁん・・・・・・。
アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
まさに、地獄。
ベチベチッ、ベチベチッ。・・・・・・。
「投げ込むか、霧雲山へ。」
コッコ、サラッと言い放つ。
ベチベチッ、ベチベチッ。・・・・・・。
「祝辺か?」
大蛇、ニコニコッ。
ベチベチッ、ベチベチッ。・・・・・・。
「隠の世が、宜しいのでは。」
チュウ、楽し気に申し上げる。
「スイマセン。ごめんなさい。もう、しません。許してください。助けてください。お願いします。ここから出して。 アァァァ!! スイマセン。ごめんなさい。もう、しません。許してください。助けてください。ここから出して。お願いします。お願いします。お願いしますぅぅぅ。」
ガタガタ、ブルブル。
「守よ。」
ブツブツ、ブツブツブツ。ブツブツ、ブツ。
「祝辺の、隠の守よ。」
アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
『ほんの少し、遣り過ぎたかナ』と思う大蛇。『このまま捨て置けば、どうなるんだろうナ』と思うコッコ。『これで祝辺の守も、少しは静かになるナ』と思うチュウ。見合って、ニコォ。
霧雲山の統べる地で、最も強い力を持つ。と、考えられている祝辺の守。束だと煩わしいが、一隠ならコンなモノ。
・・・・・・変わらないか。
戦を止められず、多くの人を苦しめ、死なせた。守がその気になれば、止められた。もっと早く動けば、多くの命が守られた。
「スイマセン。ごめんなさい。もう、しません。許してください。助けてください。お願いします!」
目をひん剥き、耳を押さえながら叫ぶ守。
「人の守を嗾け、長にせよ。隠の守を束ね、霧雲山の統べる地を守り抜け。」
大蛇に言われ、慄く。蛇神、九尾の黒い狐、あちこち伝え回る隠の鼠。揃って、ニタァと笑っている。
「人の守を、統べる地の長に。」
平伏し、誓う。何としても据えなければ!




