6-176 友達の輪
タエには先読の、強い力がある。小さな体に収まり切らず、祝の力が暴れ乱れ、闇に引き摺られている。
「器が出来るまで、茅野社で。それから野呂へ。」
狐だが犲のような強い目で、シゲを見つめる。
「神の仰せ、なのですね。」
この感じ。聞こえないように囲われている。そうまでして、人であるオレに。
「釜戸山の灰が降る地で、良村に敵う地は無い。愛し子とは違う人の子は、人の手でしか守れない。」
神は御守りくださる。隠も妖怪も、力を持たぬ人には触れられぬ。・・・・・・守れるのなら、守りたい。
「そう、ですね。」
オロチ様も、そうだったのだろう。痣だらけで死を願うマルを、人から守れなかった。愛し子でも、守れなかった。
・・・・・・今も?
「マルは闇を抜け、牙の滝を潜った愛し子。我は隠。何が起きても、隠は隠。命を奪ってでも、マルを守る。」
大蛇がフンッと、胸を張る。
「オロチ様。奪うなら、マルから離れてください。」
「ナッ、何を。」
「あの子は優しい。目の前で奪われるのを見れば、傷つくでしょう。」
「・・・・・・見えぬよう、努める。」
良村は獣谷の隠れ里と手を携え、人を逃がす。早稲にいた時から続けている。生かすため、逃がして来た。生かすため、逃がし続ける。
子を守り、村を守る。子を育てるには、暮らす家が要る。人を育てるには、村が要る。良村は良山にある。
良山を守れば、良村を守れる。良山を守れば、良村の皆を守れる。だから良山が攻められれば、守るために戦う。命を奪う。
オレたちも守り、奪う。オロチ様がマルを守るために、命を奪うなら止めない。止められない。だから。
その時は、マルに見えないように。
「シゲ。守るため、共に戦おう。」
「はい。オロチ様。」
「・・・・・・シゲ。」
「はい。」
「タエも、逃がしてほしい。」
「分かりました。しかし、霧雲山は。」
霧雲山は、霧雲山の人にしか入れない。入れるのは神、隠、妖怪。獣たち。霧雲山に入るなら、霧雲山の狩り人と。谷河の狩り人、木菟か鷲の目に頼まなければ。
「祝に会い、話をつける。大実神の使わしめ、オミとは長い付き合いだ。隠の世を通り、良村へ伺おう。大実社、石積みの社は。」
「マルが朝夕、山歩きの時に清めています。」
「そうか。オミは。」
「オロチ様の御姿は見えますが、他は。」
良村で見えるのは、マルだけ。ノリは犬と犲なら分かるが、見えないと言っていた。
「隠の世で、保ち隠のヘグとな。そろそろ、社へ戻るだろう。」
「そうですか。」
ヤノ、ホッとする。
「良山は強い。許し無く山に入れば、命が無い。隠、妖怪とて同じ。我の許し無く入らぬ。祝辺の守も、思い知った。」
大蛇、ニタッと笑う。
「・・・・・・それは。」
知りたいような、知りたくないような・・・・・・。




