6-174 釜戸山、といえば
北山社への裁きが、全て終わった。終いの裁きは、昼に終わる筈だった。休みを挟んで裁きは続き、終わったのは夕の前。
日吉は帰れる。他は泊まって、朝まで待たなければ。月や星の光を頼りに進むのは、いくら慣れていても危ない。
隠や妖怪は、飛んで帰れる。真っ暗闇でも、嵐が来ても一っ飛び。しかし揃って、お泊り。釜戸山まで来て、出で湯を楽しまずに帰る? ナイナイ。
ゆっくり、ゆったり湯に浸かり、疲れを癒す。出で湯団子を持ち帰れば、みんなニッコリ。
『なぜ直ぐ、戻らない』なんて、誰も言いません。釜戸山といえば、出で湯です。
「ミヨ、戻ったよ。」
スゥ、ピィ。スヤスヤ。
「おや、待ちくたびれたか。・・・・・・サヤに、良く似ている。」
継ぐ子の一人として、祝に仕えていた頃。社から家に帰ると、サヤが笑って出迎えてくれた。『トク兄さん、おかえり』と。
稀に遊び疲れて、眠っていたな。
ミヨが育って、好いた誰かと契るまで。叶うなら、親になるまで。少しでも長く生きて、見守りたい。サヤに代わって、出来る限りの事を。慈しんで育て、幸せに。
「うぅん、あれぇ?」
目が覚めて、小さく伸びた。目をこすりながら思い出す。ここは釜戸山。裁きが終わるまで、待ってたんだ。
仔犬、コナツと遊んで。マルやタエとも遊んで。お腹いっぱい食べて、眠くなって、それで。
「ただいま、ミヨ。」
・・・・・・えっと、トク伯父さん?
「ただいま、マル。」
「おかえい、シゲさん。」
「終わったか。」
「あぁ、終わった。」
シゲとノリが話している間、マルはマルコを撫でる。ノリコはノリに、コナツはシゲに撫でられ、ウットリ。
「お、じ、さん。」
マルを見習って、話しかける。
「何だい?」
「お、かえ、り。トク、お、じ、さん。」
ハッとして、泣き笑いの顔になる。
「ただいま、ミヨ。」
トクがミヨを、優しく抱きしめた。
宝玉神の使わしめ、ケロ。少し離れた所で、もらい泣き。『良かった、良かったなぁ』と言いながら。
出で湯? 浸かりますヨ、チョットだけ。蛙ですから。烏の行水より、早いかも。何たって直ぐ、茹だるので。
「蛇神様、黒狐さま。隠の世に、祝辺の守が居るようです。」
牙滝神の使わしめ、チュウ。闇を切り裂く他に、闇を探る力も持つ。
「暫くの間、懲らしめようとな。」
大蛇の目が、泳いでます。コッコは、尾をワサワサ。
そういうコトですか。ハイ、分かりました。隠の守が愛し子に何か、したのでしょう。愚かと言うか、命知らずと言うか。
まぁ、そういうコトです。蛇神様も黒狐さまも、楽しそうで何よりデス。
そうでした。大蛇様、でしたね。黒狐さまは、コッコさま。・・・・・・ニワ、コホン。いえ、何でも。
せっかく釜戸山まで来たのです。出で湯を楽しみましょう。フン、フフン。
因みに、チュウ。とってもキレイ好きな、隠の鼠です!




