6-173 過不及無し
「終わったか。」
「終わった。」
コッコに問われ、大蛇が答える。
心消の祝が、先読の力で見た。変えようと思えば、変えられる。変えなければ、マルが傷つく。許さん!
先乗りしていた隠の守を、平良の烏から剥がし、隠の世へ放り込んだ。
他のは脅して、帰るように仕向けた。一人足りないと気付くまで、かかるだろう。
隠の守よ、早く気付け。長引けば長引くほど、闇に飲まれるぞ。戻るまで、かかるぞぉ。クククッ。
「大蛇よ。愛し子と、娘二人。どうする。」
「ん?」
マル、タエ、ミヨ。三人の娘たち。皆、強い力を生まれ持つ。
霧雲山。祝辺に取られれば、生け贄にされて死ぬか、扱き使われて死ぬか。どちらにせよ、幸せになれない。
霧雲山を守る力が、少しづつ弱まっている。このままでは何れ。
祝辺の守は慌て、焦り、見誤る。その時、どう動く。アレは霧雲山を守るためなら、何だってする。愛し子でも、いや愛し子を使って、治めようとするだろう。
「許さん! 残らず根の国へ叩き込む。その前に、隠の世で闇に。フフ、フフフフフ。」
「・・・・・・、友よ。」
この地は、水が豊かだ。中でも霧雲山は、水を湛えた甕のよう。甕が割れれば、どうなる。
近くの山が防いで、大きな大きな湖に。それも良いがな。
霧雲山が崩れても、統べる地には多くの祝がいる。社には神と使わしめ。天霧山、乱雲山が支えるだろう。初めは少し困るが、どうにでも。
良山で祝の力を持つのは、マル一人。良村の人は皆、強い。戦い、守れる。マルも村を守るため、出来る事をしようと。
「となれば?」
「尽くそうと・・・・・・する。」
コッコの問いに答え、大蛇は悩む。
マルは優しい娘だ。苦しくても辛くても、力を使い続けるだろう。日に日に痩せこけ、倒れてしまう。良村の皆が止めても、『出来る限りの事を』とか言って。
守め! 祝辺から出て、力を尽くせ。霧雲山を守りたければ、人の心を集めろ。崇められているからと、手を抜くな。
死ねば、隠になるダケ。死んでも守は守。命などガリガリ削って、隠になれ!
なぁにが、祝辺の守だ。霧雲山しか、守れなかったではないか。統べる地を守ったのは、隠と妖怪だ。化け王の才に頼って、何とか持ち堪えただけ。ハッ。
・・・・・・とはいえ、このままでは。隠の世か、妖怪の墓場で。いや。良村で暮らす方が、幸せだろう。
人の子は、人の世で生きる。それが良い。愛し子の幸せを守るために、出来る事。
「・・・・・・気に食わんが、解った。」
シブシブ、イヤイヤ。
「もう少し、待つか?」
コッコも、大蛇と同じ気持ちでした。
「そうだな。」
大蛇の顔がパァッと、明るく。
「そうしよう。」
コッコも、ニッコニコ。
その頃、隠の世では・・・・・・。
隠の守が闇に絡み付かれ、目を剥いて呻っていました。あぁ~ら、らっ。




