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祝 ~hafuri~  作者: 醍醐潔
良山編
338/1634

6-172 見守っていてね


そうだった。人は醜く、愚かな生き物だ。奪い奪って、奪い合い。傷つけ、楽しみ、歪んで。


魂を剥がされためかんなぎおかんなぎなど、どうでも。それよりおに。こんなに濃い闇を纏い、戻れるのか?


・・・・・・戻れなくても良いと、思っているのだろう。戻れなくても、かたきを討つと。



蛇神はなぜ、私をココへ? 黒狐はなぜ、止めなかった。国つ神とはいえ、隠。主とはいえ、妖怪。


根の国と、どのような繋がりが? 隠のときでも、妖怪の墓場でも無く。


・・・・・・動けない。重い。ウルサイ。・・・・・・めぐし子は、マルだけでは。それで、このような。だとすれば、ぐにでも。



「牙の滝の、蛇神様。」


釜戸社かまどのやしろの裁きに、御出おいでに。


「狐の、狐の泉の主さま。」


プイッ。呼べば来ると思うな!






「キャァ!」


マルコやコナツと楽しく遊んで、眠り込んでいたタエ。悪い夢を見て、飛び起きた。


「ヨシヨシ。こわくぅ、ないよっ。」


マルに見つめられ、夢だと気付く。隣にはミヨ。コナツを抱き、スヤスヤと眠っている。


「水、飲むかい?」


ノリから竹筒を受け取り、ゴクリ。


「ありがとう。」



そう、ここは釜戸山。北山じゃ無い。北山社きたやまのやしろから、釜戸社かまどのやしろが救い出してくれた。纏わりつくような濃い闇から、明るく温かい、光の中へ。


それでも怖くて恐ろしくて、ガタガタ震えていた。叫び出しそうになった時、マルが抱きしめてくれた。そしたら嘘みたいにスッと、楽になった。




・・・・・・添野に戻れると、言われた。


戻っても、誰も居ない。母さんも父さんも、死んだ。私を守ろうとして、殺された。母さんが生まれた茅野にも、婆さまが生まれた飯野にも、ゆかりの者は一人も。


豊田は嫌、添野も豊野も豊井にも。豊田の国には、戻らない。そう言ったら茅野神かやののかみの使わしめ、ヤノさまがおっしゃった。『茅野社かやののやしろへ。神のおおせです』って。


『母さん、父さん。私、生きます。きっと幸せ、掴みます。見守っていてね。』心の中で言ったら、ミヨの伯父さんに言われた。『きっと幸せに暮らせるよ』って。




ミヨは、伯父さんに引き取られる。


玉置の国、宝玉社たかたまのやしろ。社の司で、心の声が聞こえる。祝の継ぐ子だったんだって。とっても優しそうな人。


ミヨは話せなくなった。言の葉は出るけど、話せない。でも『話せるようになるよ』って、心の中で言ったら、ニコッとした。『生きようね、幸せになろうね』って言ったら、頷いた。



生きよう。


殺された人、死んだ人、死を選んだ人が残した時を、私に残された時に重ねて、思い切り生きる。


生き残った私たちが幸せになれば、死んだ人たちも幸せになれる。そう信じて。






「お狐さま。」


「何だ。」


「マルは、他の子も諦めます。ですから、御願いです。」


「断る。愛し子を狙った隠が、アッサリ許されると思うな。」


九尾ここのおをワサッワサさせ、言い放った。



隠の守は、巫や覡の魂と共に、闇の中で悶える。大蛇おろちが許すまで。


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