6-170 隠の世にて
『悪くない』などと叫んだ、愚か者。ナオとヒセは魂を剥がされ、隠の裁きを受けた。
「こっと、われなっ、くて。」
「わ、わっるくっ、ないっ。」
「言われて、それでっ。」
巫や覡たち。恐れ戦き、呟いた。
そう、確かに。
初めは、断れなかったのだろう。逃げられなくて、どうしようも無く。言われた通りに行った。悪くない? それは違う。
偽ったのだ、神の声が聞こえると。欺いたのだ、隠の声が聞こえると。騙したのだ、誑かしたのだ、惑わせたのだ。欲に転んで。欲に目が眩んで。
神は、お守りくださる。生け贄など求めず。神は、お守りくださる。戦など望まず。神は、お守りくださる。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 ベチャッ。
「は、放せぇぇぇぇ!」 ベチャッ。
逃げ出そうとする者は残らず潰され、闇に飲まれる。その様は底なし沼や、蟻地獄。
闇を纏っても、闇に飲まれても、隠は隠。釜戸社に集まった隠たちは、決めていた。敵を討つと。
「なぜっ。」 ベッチャッ。
「た、すけて。」 ベチャッ。
見えもしないのに見えると、聞こえもしないのに聞こえると。悪しき企てに踊らされ、悪しき企みに溺れた、憐れな抜け殻。
魂を抜かれ、目がドロン。生きているのか、死なないでいるのか。
この度の裁きに呼ばれた、巫や覡。多くの命と魂を奪った罪により、罰を受ける。
魂を傷つけたのだ。命を奪ったのだ。その魂は闇に、抜け殻は火口へ。
「隠の守よ、諦めは付いたか。」
・・・・・・。
大蛇の力により、平良の烏から剥がされた。組み敷いて縛り上げ、隠の世に放り込む。
愛し子を奪おうとした罰として、根の国の物を口に詰め、塞ぐ。話したくても話せない。
幾ら隠でも、根の国の物を飲み込めば、中つ国へ戻れなくなる。隠は闇に強い。闇に飲まれる事も、操られる事も、見失う事も無い。しかし・・・・・・。
「離れの者らには、憑いて居る。蛇、狗、狐。他にもイロイロ。」
・・・・・・。
「深く深く死を望む者は、死なせた。釜戸山でな。」
・・・・・・。ギリッ!
「そう睨むな。霧雲山が選ばれなんだ、それだけのコト。」
釜戸山に来た隠の守は、五人。しかし一人、先乗りした守が。狙うはマル。
牙の滝から飛び降りても、死ななかった。谷河の狩り人に見つかり護られ、離れた。暫くして、牙滝神が御隠れに。
人の子を守るために、御力を使い果たされたのかと。しかし違った。人の子に、マルに憑いたのだ。
他に引き取られる前に、霧雲山へ。急ぎ手筈を整え、釜戸社へ飛ぼうとした時、知らせが入った。良村に引き取られたと。
・・・・・・その通り。選ばれなかった。蛇神が憑くような子が社の無い、出来たばかりの村に取られた!




