6-168 妻子の敵
タエの苦しみは武田から、鴫山社から始まっている。
巫も覡も、祝を守ろうとしなかった。先読の力を持つ祝を、己が欲を満たすためだけに、モノとして売り飛ばしたのだ。
娘、母、祖母。三代に渡って、同じ苦しみを・・・・・・。
「仕置を言い渡す。鴫山社の巫、ミバァ。覡、ミジィ。仕置場にて、鞭たたき。痣だらけにしてから縛り、二日の間、吊るす。三日め、火口へ飛び込め。」
エイの下した判決に、揃って不服そうな顔をした。見えない二人は社の司、クアに助けを。しかし、悟る。
見えないハズなのに、見えたのだ。鴫山神の使わしめ、マイの姿が。蜷局の中で歪む、クアの顔もバッチリ。
「御怒りだ。『釜戸の祝が甘ければ、絞め殺せ』との、仰せである。」
マイはニタッと笑って、言い放った。呻るクアに睨まれ、ミバァもミジィも真っ青。
「仕置場へ。」
飯田の国、飯田社。祝が居るにも拘わらず、覡も。
巫は、祝を庇って死んだ。それから誰も、巫になろうとしない。祝の力を持つのは皆、男。祝が殺された時、力を失った。だから飯田社には、祝女が一人もイナイ。
飯田の長と覡、ナオ。次から次へ攫い、売り飛ばしていた。東山のや武田のと同じ、クズである。
他から奪っただけでは無い。飯田の祝を殺し、祝の子を攫った。そして、死なせた。
「仕置を言い渡す。飯田社の覡、ナオ。仕置場にて、鞭たたき。痣だらけにしてから縛り、二日の間、吊るす。三日め、火口へ飛び込め。」
「嫌だ!っ、何を。や、止めろぉぉ。」
燃えるような目をしてカタが、ナオの腕を思いっきり、捩じ上げた。
「覡よ、この顔。見覚え、あるな。」
「社の司だろ! イダッ、イダァァッ。」
放せ、オレは悪くない。
飯田の社の司、カタ。妻と娘を飯田の長と、覡に奪われている。妻を守ろうとして、切りつけられた。命は繋いだが・・・・・・。
泣いて叫んで、ボロボロに。どん底まで落ちて、心の声が聞こえるように。
妻は娘を守ろうとして、ナオに刺し殺された。娘は攫われ、北山に売り飛ばされる。まだ子なのに穢され、孕まされた。
幼い体では、お産に耐えられない。それでも産まされ、長引く。大の男、三人がかりで押さえつけられ、胎から引き出された子は、死んでいた。
お産でボロボロだった娘は、息絶えた。骸は刻まれ、山に。・・・・・・獣に食われ、骨はアチコチ、散らばった。
全てを知ったカタは、泣き叫びながら探し回った。飯田神の使わしめ、ヒオも手伝った。それでも見つからず、裁きを見届けようと、釜戸社へ。
ヒオは、牙滝神の使わしめチュウに、言伝を頼む。『遅れるが必ず出るから、飯田の裁きを後に』と。
急ぎ社に戻り、牙滝神の御許しを得たチュウ。飯田神に御願い申し上げる。どうか、どうかと。そして使い蛇に乗り、釜戸社へ。
そういう訳で、ヒオとカタが遅れて来た。
「オマエが殺した女は、オレの妻だ。オマエが攫った子は、オレの娘だ。二人とも死んだ。なのに何だ。放せ? オレは悪くないだぁ?」
「ヒイッ。オレは、そんなコトは。」
「オレには聞こえるんだ、心の声が!」




