6-167 私腹を肥やした結果
調べによると、祝や祝の子らは皆、社や離れから攫われたと判った。
武田、東山、飯田、川北、北山。その長や覡が、狩り人などから聞いた話を元に、祝の力を持つ者を。
鴫山社の祝女、マルを攫ったのは東山の長と、覡だった。
東山社には、祝が居ない。
ずっと昔、村の人が数多で。穢された祝は、己が命を断った。神は荒ぶられ、山だけを守られるように。
それからだ。東山に祝が、生まれなくなったのは。
祝を求めるなら、神に御許し願い奉るのみ。にも拘わらず、他から攫うなど、決して許されない。
長は戦を仕掛けた罪で、死んだ。終わらせれば良いものを、覡。日追が全て、引き継いだ。全てだ。
攫った女を追い詰め穢し、子を産ませ、産ませ、産ませ、死なせた。攫った男を追い詰め壊し、闇に堕とし沈め、孕ませ、孕ませ、孕ませ、狂い死なせた。
死なずに残った者を売り飛ばし、他の者を攫った。そうして多くの命と魂を弄び、東山は何を得た。
鴫山の祝女マルが、命を引き換えに産み落とした嬰児には、祝の力が無かった。役立たずと罵り、骸を山奥に捨てた。嬰児は攫った他の者に押し付け、そのまま。
幼子が川北に攫われたのに、気付かなかった。なぜだ。祝の力を受け継がず生まれた子など、どうとでも。か?
北山に攫われた子が娘まで育ち、北山に攫われた。にも拘わらず、気付かなかった。なぜだ。祝の力を持たぬ娘など、どうとでも。か?
「仕置を言い渡す。東山社の覡、日追。仕置場にて、鞭たたき。痣だらけにしてから縛り、二日の間、吊るす。三日め、火口へ飛び込め。」
「フッ、何を言い出すかと思えば。東山神が、荒ぶられるぞ。それでもっ、・・・・・・ぐっ、るじぃ。」
暴言を吐こうとしたら、イキナリ何かに押さえつけられ、息が出来なくなった。
「黙れ、日追。東山神は大層、御怒りだ。釜戸の祝が甘ければ、覡を焼き殺せとの仰せである。」
アズはポンと狐火を出し、見せつけながら言い放った。
「まざがぁ。」
「受け入れよ。」
「ぞんなアァァァァァァァ。」
狐火で顔を焼かれ、叫び、呻りながら小さくなった。
「アズさま。日追を、仕置場へ運んでも?」
「あぁ、そうだな。頼む。」
控えていた祝人の足元に、ポイッ。そして、ニッコリ。
胸に手を当てずとも、身に覚えが有る者ら。揃ってガタガタ、ブルブル。さて、お次は?
鴫山社には、祝が。祝女に祝人、継ぐ子にも困らない。なのにナゼか、巫と覡が一人づつ。
ハイ、そうです。武田の長と共に謀り、祝や祝の子を攫って売り飛ばし、公に事寄せて、己のためになるよう、動いていました。
命を落とした者の中には、タエの身内も。
タエの祖母は飯野から、武田に攫われた。守ろうとした父母も、殺されている。武田から東山に売られ、逃げ果し、茅野で娘を奪われた。守ろうとして、夫と共に殺された。
タエの母は茅野から、飯田に攫われた。守ろうとした父母も、殺されている。飯田から川北に売られ、逃げ果し、添野で娘を奪われた。守ろうとして、夫と共に殺された。
タエは添野から豊田に売られ、豊野に逃げたが豊田に見つかり、北山に売られた。縁の者は皆、殺された。




